トマ・ピケティ氏(パリ経済学校教授)に反論

優利加さん
優利加さん

皆さんは、2014年12月22日(月)付けの日本経済新聞朝刊第1面の「展望2015」というコラムを読んだだろうか?トマ・ピケティ氏(パリ経済学校教授)が寄稿した。私は学問的な違和感を覚えた。彼は次のように主張している。「・・・過去200年の成長と富の歴史を見ると、資本の収益率は一国の成長率を上回る。労働収入より資産からの収入が伸びる状況だ。数年なら許容できるが、数十年続くと格差の拡大が社会基盤を揺るがす。」

そもそも経済学は、例えば厚生経済学は消費者余剰、生産者余剰、政府余剰を最大にするにはどうしたら良いのかという視点で本来は研究されてきた。成果である付加価値をどのように分配すべきかという問題は経済学の領域ではなく、その国ごと、文化ごとの価値観で決めるべきことである。日本も含めて多くの先進国は、企業が生み出した付加価値により大きな貢献をした人が、あまり貢献しなかった人より多くの報酬を受け取ることに異議はほとんど唱えないであろう。なぜなら、我々の価値観は、すべての人に対して報酬を平等配分することを良しとしないからである。ざっくり言えば、人より難しいことをやりより儲けた人は、より簡単なことをより楽にやった人よりもたくさんの報酬が得られて当たり前であると理解し、それを価値観として受けれている。

このロジックは投資家と労働者の所得格差にも当てはまる。投資家が提供する資本資産の収益率が労働者の労働収入の伸び率よりも高い現象が数十年に渡って続くことはむしろ当然であり、それが理にかなっている。なぜなら、労働者の賃金は契約により守られ、企業の業績が良くても悪くても契約通りの賃金を保証されているのに対して、事業に必要な資金を提供している株主は報酬の受け取りが全ての利害関係者(ステークホルダー)の中で一番劣後しているので、一番大きなリスクを引き受けているからである。具体的には、商品の売上によって受け取った売上高から、仕入れ業者に仕入れ代金を支払い、従業員に賃金を支払い、銀行や社債の投資家に利息を支払い、政府や地方自治体等に税金を支払い、それでも残ったお金あった場合だけ株主に配分可能になるという非常に不安定な立場である。つまり、事業が稼いだ利益の配分が一番後回しなのだ。とういことは株主はすべてのステークホルダーの中で最大の事業リスクを取っているのである。企業が借金をしている場合は、さらに財務リスクも負担する。最大のリスクを取っている株主が契約によって保護されている労働者の報酬と同じ収益の伸びでは、誰も大きな資金を事業に提供しようとは思はなくなるだろう。ハイリスクにはそれに見合うハイリターン、ローリスクにはそれに見合うローリターンでなけば、企業を成長させるためのリスクマネーは集まらない。

トマ・ピケティ氏は次のようにも主張しているが、これも間違いだ。「・・・中間層の労働収入への課税を少し減らし、高所得者に対する資産課税を拡大するのは合理的な考えだと思う。・・・」 否、むしろ、経済を活性化したいなら、リスク資産にお金を提供することを奨励するために資産課税を減らすべきである。


優利加さんのブログ一覧