M’sBARに出向いたのは今日で2度目だ。
1階のドアを開けると、この間とはうって変わって閑散としていた。
客は、見ず知らずの男が一人しかいない。
オイラが入店してしばらくすると、もう一人、野郎が入ってきた。
今日は、ママが休みのようで、アシスタントの女性がその野郎の相手をした。
「また、戻ってきたの?」
アシスタントが呆れていた。
この野郎は、いかにも常連なようだ。
外様なオイラは、黙って様子をうかがっていた。
やたら、おしゃべりな野郎で、その語り口とみてくれは、いかにも桑田佳祐風だ。
気がつくと、
ママのアシスタントと、桑田風の野郎とのマシンガントークが炸裂していた。
オイラなんぞは、割って入る隙もない。
「目当ての店が、空いてなかったのかしら?」
アシスタントがそう言うと、桑田風は続けた。
「まだ宵の口だろうが、そんなに目くじらを立てるなよ」
まったく、どーしてこんな日に来ちまったんだろうと後悔するオイラの様子を察したのか、
アシスタントとの話が途切れた拍子に、桑田風が突然、オイラを見て声を大きくした。
「あんたも、そう思うだろう?」
「そのかけ声を待ってたよ。このまんまオイラ喋らずにいたら、
アルコール中毒で救急車呼ぶところだったぜ。喋らしてくれればよ、オイラはいくらでも飲めるし」
オイラがそう言うと、桑田風はおもむろに手を差し出したので、仕方がなくオイラは握手した。
「なぁあんた気に入ったぜ、俺の名ははサンダーっていうんだ。
この辺で困ったらな、いつでも俺の名前を出せや。
その手持ちの一杯飲んじまえ。次はオレ様がおごってやるからよ」
そんな風になっちまうと、
すっかり気をよくしちまったオイラは、いつものように例の村上春樹としをんとゴードンの、
そして落雷IT談合で、ハードボイルドな話を始めるのだった。
とたんに桑田風の顔色が変わった。
「それで、今まで聴いていた話がすべて通ったよ」
そんなに地元では有名な話なのかと、オイラは思った。
「あんた、それ全部イッキして、次もおごらせろ」
なんとなく怖いんだけれども、どうにでもなるさと、ゴチになった。
そんなことが何度か続いた。
どうも嘘かホントかわからないが、この桑田風は東大or京大出だという。
出版関係の知り合いがたくさんいて色々話を聞いており、
今日のオイラの話を聞いて、や~っと、つじつまが合ったと興奮していた。
そうこうしているうちに、はしご酒が身に染みている桑田風は、耐えきれずに店を出た。
桑田風が店を後にしたので、アシスタントに事実を確認した。
「不思議ですね、今日はあなたがいたせいか長居でしたよ、随分と。
あー、あの人は確かにうちの常連ですけど、実態はなんだか不明な人ですよ。
でも、ヤクザではないですね。きっと自営です。
最近はダイエットしているというので、うちに来たのも久しぶりなんですよ」
それでもオイラは、桑田風の男の実感が手に取るようにわかった。
「市役所とか県庁とか、オレ様はな、なにしろ地元人間だから、偉いやつをたくさん知っているのさ」
自分のことはほとんど語らず桑田風は、M'sBARを颯爽と後にしたのだった。
桑田風は、オイラのことを大ファンだと言ってくれた。
なんだか、悪い気はしないね。
フランシス・コッポラの「ゴッドファーザー」にでも、なった気分がする。
PS:また今日も、つまらぬ営業をしてしまった。
これで、村上ファミリーの書籍は、またぞろ売れてしまうだろう。
早く、銀座で飲ませねーか、お前ら。。
こんだけ売ってやってるってのに、良心の呵責ってものはないのか、エ~♪