(略)
街から少しずつ酒乱が消えていく。
もうすぐ忘年会のシーズンである。
交差点の真ん中で月に吠える社長さんや、
電信柱に外掛けをかける部長さんは少なくなった。
昔に比べて、今は皆しあわせなんだろうか。
飲まずにはいられない、酔わずにいられるか、
という人生が消えたとはとても信じられない。
新婚ほどなく酔っ払って帰宅して、
新妻を汲み伏そうとした男が、性的暴力を受けたと、すぐに離婚されたそうだ。
酔っ払っていないで汲み伏す男の方が、私には異常に思えるし、
性に暴力の要素がなかったら、
その行為は保健体育のさし絵のようになるのではなかろうか・・・・・・。
「酒に溺れて、あなたは逃げているのよ。自分の弱さを忘れようとしているのよ」
こう言う馬鹿な女がいる。
しかし逃げることを知らないで、人間が生きていけるのだろうか。
忘れる術を身につけないで、ずっと人間をやって行けるんだろうか。
”今夜すべてのバーで”行われていることだけが、人間らしいとまでは言わないが、
二日酔いの身体に鞭打って、一杯目の酒が腹にしみ込んで、
やがて世の中のすべてがバラ色に見えて来る瞬間を味わえないでいる人は、
少し可哀想だと私は思っている。
全員、酒場に集合!
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★「二日酔い主義傑作選 銀座の花売り娘」
伊集院静著 文春文庫 600円+税 2014.9.10.第1刷
「全員集合」P.179より抜粋
オイラにとって伊集院静という作家は、
すでに色川武大よりオモロイ人となっている。
酒乱なオイラにとって特にこのエッセイ集は、もはやバイブルと化している。
そう思えるほど、いちいち共感してしまうのだ。
しかも、この次におさめられている「メリークリスマス」というエッセイは、
西原理恵子風なオモロイ話となっている。
内容が、それはそれは悲惨なのである。
けれども、読者を笑わせるのだ。
要は、どーいうわけか金がないという話に集約されるのだけれども、
今や、西原理恵子は高須クリニックという打ち出の小槌をゲットしたせいで、
2億円という借金も気にならないという状況。
この事実が、伊集院静の状況を一層悲惨なものとして際立たせてくる。
(今は違うのかもしれないけれど)
そこで、オイラに妙案が浮かぶ。
伊集院静は、黙ってオイラを銀座に連れていけばイイのだ。
そこで、正体不明になるまで飲み明かそう。
支払いは、伊集院静の口から次のように言えばイイのだ。
「支払いは全部、村上春樹につけといて」
オイラなんぞがそう言ったって、銀座のママは絶対に信じやしないけれど、
現実に常連な伊集院静がそう言えば、銀座のママは信じるしかないのである。
どうですか、イイ考えでしょう?
オイラもね、少しは野坂昭如から、学んでいるのですよ。
PS:このエッセイ集を読むと、
実際に京都・鎌倉・周防など観光地を訪ねたような気になれるし、
祇園や銀座でホントウに飲んでいる気分にもなってくる。
オマケに、ギャンブルで擦った気分まで味わえるという、
それはそれは、たまらない1冊になっている。
PS2:読売の読書コーナーによれば、
三浦しをんは仕事のしすぎで、もう小説を書きたくない気分だという。
伊集院静も、同じだとこのエッセーに書いている。
あなたも一緒に、銀座で飲みましょう。
(「まほろ」にブティック店を持っているという裕福なミーちゃんも、
ホケンとして連れていこう)
その店では、三浦しをんのことを昔の源氏名で(?)、呼んであげるってば。