弁天小僧と江ノ島と1984年の話

元祖SHINSHINさん
元祖SHINSHINさん

そういえば、かつては存在していたマエストロ掲示板で、

なぜだか急に思い立って、弁天小僧の見得を切ったことがあったなぁ。

こういう小さいけれど不思議な偶然の積み重ねが、

彼の意識を少しずつ、むしばむように支配していったのだろう。

 

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僕ら三人は江の島の中にある<岩本楼>という、かなり由緒ある古い旅館に泊まった。

我々の穏やかな日常の中で、江ノ島で旅館に泊まるというようなことはまずないので、

これはなかなか新鮮な体験だった。

 

すごいぜいたくをしているという感じもあった。

だって今から東京に帰ろうと思えば、

小田急線に乗って一時間くらいでさっと帰れちゃうところを、

わざわざ部屋をとって「お泊まり」するわけだから、

それはかなりリッチな気分になれる。

 

ただし夕ご飯を食べ終えてしまうと、やるべきことがほとんどなくなってしまう。

江の島では日が暮れると一般観光客はほとんどいなくなり、

あとはおおむね常住ネイティブの人たちだけの世界になる。

 

だから暗くなっても開いているお店は少ない。

つまり江の島には、ナイトライフみたいなものがほぼ存在しないのだ。

ちょっと外に出てお酒でも軽く飲もうかと思っても、

我々がそこで目にする選択肢は、きわめて限られたものになってしまう。

 

ちょうど夜中の丸の内近辺みたいな雰囲気である。

ろうそくを手に、白装束で夜更けの島内神社巡りをしようというような、

かなりピンポイントな目的を胸に抱いてやってくる人を別にすれば、

普通の人は時間をもてあますことになるだろう。

(略)

 

この旅館<岩本楼>は江戸時代からやっていて、

弁天様の参拝に江戸あたりからやってくる人々の世話をし、

一夜の宿を提供していた。

 

当時は小田急ロマンスカーなんて便利なものはなかったから、

多くの人々は泊まりがけで、江の島までてくてく歩いてこなくてはならなかったわけですね。

 

江戸時代に盗賊として名をはせた弁天小僧も、

少年時代は稚児として、宿坊<岩本院>(<岩本楼>の前身)で、

宿泊参拝客の世話係を勤めていた。

 

ただ、こういう稚児の中にはけっこう悪いやつもいて、

さい銭を盗んだり、宿泊客の持ち金を盗んだりして、

それで夜な夜なばくちを打ったりもする。

 

弁天小僧もすぐにそういう悪習に染まって、道を踏み外し、

長じてプロの泥棒になってしまった。

そして捕り手に囲まれ、自らの身体に刀を突き立てて、十七歳の短い生涯を閉じる。

 

たぶん昔の「湘南不良青年」みたいな感じの人だったんでしょうね。

ここのところ湘南不良青年は、人によっては長じて政治家になったりしてますけど。

(略)

 

(村上)

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★「東京するめクラブ 地球のはぐれ方」

  村上春樹・吉元由美・都築鏡一著 文春文庫 1,000円+税 2008.5.10.第1刷

  「江の島でお泊まり 岩本楼 弁天洞窟風呂」P.319~321より抜粋

 

最後の行からは、村上春樹がなかなかな政治不信論者だとわかる。

共著のこの三人は、大親友であると書いてあった。

と聞いてしまうと、色々と悪戯心が湧いてきたりするのだけど。

”ウインダム”にちょいと、探りを入れてもらうことにしようか。

 

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僕(村上)は昔、一年ばかり藤沢の鵠沼に住んでいたことがある。

一九八四年だったかな。

ずいぶん昔です。

 

そのころはまだ家のまわりを人力車が走っていた、

というのは真っ赤な嘘だけど、

とにかくここに住んでいるときに

「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」という長い小説を書いた。

 

だから藤沢というと、あの作品を思い出すことになる。

今からいうのもなんだけど、あの小説を書くのはけっこう大変だった。

 

小説執筆のかたわら(というと、なんか文士っぽいですけど)、

ときどき散歩の足を伸ばして、

ここ<ホノルル食堂>まで昼ご飯を食べに来ていました。

(略)

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★同著 「ホノルル食堂」P.352より抜粋

 

なんで鵠沼伏見稲荷とモロボシダンの店にも、行かないのかな・・・。

 

IT談合の話も、「1Q84」の話も、

少なくともノンフィクション(私小説)的なミステリー小説にできるはず。

 

「あしたのジョー」の最期みたいに真っ白になるまで、粘ってみる。

それで、いいじゃないか。

 

「海辺のカフカ」に出てくる佐伯さんみたいに、

書くだけ書いて未発表のまま死んじゃったって、いいじゃないか。

 

あの世に帰ったら、

”本当にオモロイ人生だった”って、きっと神様に言える。

 

 

 

 

 

 

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