結論から先にいっておきますが、この話は、「うそ」です。恐ろしい結末が待っています。
今から4~5年前のことです。私の大学時代の友人たちが、年4回。飲み屋に集合して、好きな話をやっていました。
この日は彼を含めて5人が集まり、それぞれ健康や、海外旅行の話に興じていました。皆すっかりいい年になって、退職後10年生の自慢話といった雰囲気です。ちょっとした料理とビールで、すっかり盛り上がったところで、トイレから帰ってきた彼が私の隣に座り、囁くように、
「……君、俺はなぁ、株で絶対に儲かる方法を発見したぞ!」
「それはすごいですね。俺にも分けてよ」
しばらく間があって、
「これは内緒だけど、皆やるようになったら、儲からなくなるからな!」
私が黙ってうなずくと、
「最近、出来高が増えて上がってきた大型株を、無期限信用で売っておくだけさ」
「そうすれば、半年くらいで、必ず元の値まで下がるから、そこで買い戻せば絶対儲かるよ。俺はこの方法で10発10中さ。絶対内緒だぜ!」
といって、さっさと自分に席に戻り、また雑談に花を咲かせていました。
なぜ彼が、私にだけ耳打ちしたのか、いまだに謎ですが、この男、何かと謎の多い人物ではありました。一昨年には、100万円を学校に寄付をしたり、彼が所属していたスポーツ部がインターカレッジに優勝したら、1千万円の懸賞金を出すといったりして、皆をうらやませたものです。
学校を卒業して大手の銀行員になって、45歳で会社をやめ離婚し、父親と一緒に生活しているというような話が伝わっていましたが、豊かな生活をエンジョイしている割には、何で食べているのか不明でした。
「銀行でディーリングをやっていたというから、きっと株で生活しているのだろう」というのが、われわれ仲間の共通認識でした。
彼はめったに株の話しはしませんでしたが、ときどき挙げる儲け話は投機的なもので、長期投資を目的とする私の銘柄とは相容れないものでした。でも今度の話は、大型株で誰でも関心のある株の話でしたが、大型株の空売りとは意外といえば意外でした。
今回の話も、その延長にあるとすれば、彼の投資法の一部が垣間見られた気持ちで、いつか、試してみようという気持ちにもなりました。
ところがそれから半年後、彼の姿が会から見えなくなってしまったのです。
たまたま新年会の折だったので、彼の話が持ちきりになりました。
「どうも、あいつは夜逃げしたみたいだぞ!」
「年賀状は、宛先不明で帰ってくるし、電話は通じないし……変だね」
うわさの真偽は分かりませんが、彼は以後、その会から姿を消したのは事実です。
あれほど、株好きで、勉強し、経験も豊富だった彼が、樹海行きになるなんて、今でも信じられません。好きだった信州の唐松林に囲まれた別荘で、親父さんとひっそり暮らしているのではと、思いたいのですが……。