「明日は赤坂のスペイン大使館に行って、パスポートを更新しないといけないの」
スペイン酒場ヒラソウル(ヒマワリ)に着くや否や、ママはそう言うのだった。
「その帰りに、世田谷にある北見修道院へ行って、恩人をお見舞いするの」
スペインにあるカソリック教会から派遣されていた
シスター ホセ・フィナは、ママの恩人のようだった。
スペインママが日本に嫁いできたとき、ホセ・フィナはすでに60歳を超していた。
なので、もう100歳に近いか、それを超した年齢なのだという。
「私の結婚式のとき、彼女たちがすべて仕切ってくれて、何もかもがタダだった。
あなたは今日から私の娘なのだから、
困ったときにはいつでも尋ねてくればいいって言ってくれた」
「日本に来たばかりのときには、日本語をほとんど話せなくって、
日本語の講義も全部タダで教えてくれた。
でも、初めの頃はスペイン語ばかりで語る私の愚痴をずっと黙って聴いてくれた」
「修道院へ行っても、もう面会は無理みたいで。
医師からは、もって今日か明日には亡くなると宣告されているみたい。
だけど、せめてお花くらいは差し上げたくて」
会ったこともないシスター ホセ・フィナなのだけど、
話を聞いているだけで、どれだけ凄いシスターなのかよくわかった。
「私にとってホセ・フィナは、マリア以上にマリアなのよ」
昨日モロボシダンに会ったせいなのか、
今日のスペインママのハスキーな語りは、アンヌ隊員が話しているかのようだった。
土砂降りだという天気予報が、外れますように。