(略)
古本市の二日前、サンダースはギルキーの顔写真を手に入れた。
想像していた顔とはまったく違っていたそうだ。
「ひとつだけ教えておこう。やつはモリアーティー教授とは似ても似つかない顔だったってことだ」。
サンダースはシャーロック・ホームズに「犯罪のナポレオン」と言わしめた人物の名を口にした。
写真に写っていたのは地味な顔の三十男で、黒っぽい短髪を七三に分け、赤いTシャツの上に白いワイシャツを几帳面にボタンを留めて着ていた。生気のない表情で、恐ろしげなところはなかった。
しかしサンダースの友人ケン・ロペス(長身のマサチューセッツの古書店主で、型までの長髪。Tシャツのポケットには封の開いたキャメルが入っている)は、わかっている限りで一番最新のギルキーの被害者だった。ギルキーはスタインベックの『怒りの葡萄』の初版本を電話注文し、詐欺を働こうとした。
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小説を読んでいるみたいに、米国作家や村上春樹のようなジャズ的で粋な挿入文句がはさまって、
話もなかなかスリリングなのだけれど。
これだけ読んでも、これがノンフィクションとは思わないでしょう。
このあいだ「芥川賞」初版シリーズが「何でも鑑定団」にかかって、
全部で数千万円の値がついたのだけれども、
米国ではそれ以上にヒートアップしているらしい。
たとえば『タマレーン』という詩集。
この40ページの小冊子はもともと20セント程度だったが、
161年経った今では、198,000ドル。
なんとこれ、エドーガー・アランポーが14歳の時に書いた処女詩集だと。
ほんのさわりの31ページまで読んだのだけれど、
珠玉ネタの宝庫だ。
村上春樹には、読ませたくないんだけど。。
もしもこの書籍ネタを、彼が小説に利用したら・・・。
いや、そんなドジなことはしないだろう(多分)
などと言って釘を刺しつつ、いじめちゃう。
★「本を愛しすぎた男 ~本泥棒と古書店探偵と愛書狂~」
アリソン・フーヴァー・バートレット著 訳:築地誠子 原書房 2,400円+税 P.12より抜粋
オイラだけは、みんなが忘れた頃、作品で使っちゃうけど。
こういうネタを、リスみたいにストックしておくんでしょう、作家って?