心理学の専門家が読み解いた、風変わりな文学批評。
そこまでの見解があるのかと、驚いた。
しかも批評する相手は、プロットをほとんど作らず直感的に書いていると目される作家の作品だ。
多くの部分がこじつけなのではないかと訝りながら読んだのだが、
ところがどっこい、その中身は目を見張るほど充実したオモロイものであった。
一部分だけ抜粋しても、まったく要領を得ないと思われる批評なので、
ここではキーワードだけ記しておく。
プレモダン意識、近代意識、ポストモダン意識、
デタッチメント、殺害と愛、結婚の四位一体性、神の子の転生など
批評は、主に「1Q84」を中心に展開されるが、
「ねじまき鳥クロニクル」や「アフターダーク」、「スプートニクの恋人」、
「ノルウェイの森」などの他に、
さらには夏目漱石の諸作品との比較などにも及んでいる。
★「村上春樹の『物語』 ~夢テキストとして読み解く~」
河合俊雄著 新潮社 1,700円+税 2011.8.30.発行
読んでいて思うことは、
河合俊雄の言うように、
村上春樹がホントウにそこまで緻密に計算して書いていたのかという点だ。
批評という、第三者の想像力により成り立つ考察だからこそ、
結果的に緻密に見えているだけかもしれない。
では、そう仮定したとしよう。
よく言われているように、
村上春樹はそのほとんどを直感的に書いたとして、
それを第三者が解析してみたとき、
その結果がこれほど緻密に見えてしまうというのは、
言い換えてみれば、それはあまりにも神懸かっている現象だと思うしかない。
実際に村上春樹が、どこまで計算して書いているかは、
今でも謎だし、これからも謎だろう。
けれども、これから書き手を目指す人にとって、
それが直感的なものであろうと、プロットをしっかり構成したものであろうと、
各因子がこういう具合に絡み合い、意味をなしていると理解しておくことは、
必須なことに思える。
その上で、他の作家による追随を許さない魅力的な文体、
そしてオイラにかかわる材料のことを汲みすると、
そのオモロサは3倍増してしまうのだ。
従って、もしも河合俊雄に批評されたとき、
オモロクなるような作品を書くというひとつの視点・目標を
オイラは得たのであった。