かつてマエストロ掲示板にて、
「あなたの文章って、北方謙三みたいだわ」
などと、女のペンネームに言われたときには、
心臓が不整脈を起こしそうになるほどビックリしたものだった。
その時には勿論、その女が村上春樹の化けた者で、
その後オイラが「1Q84」の材料になる運命だとは知らずに。
それ以来、ずっと気になってはいたのだけれど。
何の因果か、行きつけのスペイン酒場でであった元作家のカッパ先生。
その彼はなんと、北方謙三と同郷であり、
かつては佐賀県へ北方謙三を講師として招聘したこともあるという。
いよいよ興味が募ってきてはいたのだが、
彼の作品は今や数が多すぎて、何を読んだらイイのやら決断がつかずにいた。
「作家の決断」という文春新書に北方謙三が登場しており、
「三国志」は日本の皇国史観を描くために、舞台を古代中国に移したという話があった。
そこでオイラはいよいよ、この「三国志」をもって、
北方謙三ワールドに突入する決意を固めたのだった。
この書籍を読んで、
事情を知った右翼筋から「殺すぞ!」という電話があったという逸話も、強烈だ。
それに対して、「お願いだから、殺さないでちょーだい」と答えた謙三親分も、オモロすぎ。
書籍の帯には「北方版 三国志フェア 500万部突破」
と書いてある。
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草原が燃えていた。
火は拡がることはなく、ひとすじの煙をあげているだけだ。
男は息をこらした。
煙は次第に近づいてきて、やがてそれが土煙であることも見てとれるようになった。
馬の姿が現れた。
男が片手をあげ、しばらく間を置いて振り下ろした。
男の両側にいた二十六騎が、一斉に走りはじめた。
六百頭の馬。むかってくる。
まるで馬ではない別のもののように見えた。
地そのものが動いている。
二十六騎のうち、十六騎が横に回った。
馬群の後方にいる数十騎。
土煙を浴び、顔を伏せている者が多い。
斬り落とし、蹴散らすのに、大した時はかからなかった。
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★「三国志」
北方謙三著 角川春樹事務所 571円+税 2001.6.18.第一刷 2011.12.8.第五十七刷
P9.「馬群」より冒頭抜粋
「六百頭の馬。むかってくる」って部分、
「1Q84」に出てくる深田絵里子が書いたのかと、ちょっと思ったりしたんだけど。。
余計なものはすべて斬り落として、削った削った文章。
北方謙三ワールド。
登場人物の服装など描写もほとんどない。
その分、読者の想像力が勝手に働く。
たんたん、たたたん、と進んでいくストーリー。
なんたって、相手の姿もろくに見えないうちから、斬っちゃうんだぞぉぉおおお!
そんな強引な筆致に、不思議とどんどん吸い込まれていく。
30ページまで読んだところで、
もう全巻読んじゃうしかないんだろうなという気配を思う。
ちょいと、映画の「椿三十郎」でも視ているような、
そんなオモロサが、どうもこの北方版「三国志」にはあるようだ。
嘘だと思うのなら、ちょこっと立ち読みしてごらんなさいって。。