籾井勝人NHK会長の就任記者会見での発言に端を発した混乱が収まらない。従軍慰安婦について「どこの国にもあった」などと述べた発言である。
籾井氏はこの1週間も毎日のように参考人として国会に呼ばれ、追及された。国会での釈明も説明不足で、国民、視聴者の理解を得ようという姿勢に遠い。
このままではNHKの信頼はさらに損なわれる。浜田健一郎経営委員長ら経営陣は籾井氏の進退を含め対応を急ぐべきだ。
籾井氏の国会での発言に眉をひそめた人は多いだろう。例えば19日の参院総務委だ。
会長発言を理由にNHKの取材チームが在日米大使館に番組取材を断られたと報じられたことを問われると、「取材、制作に関することは答えかねます」。なぜ答えられないかとの質問には「企業秘密でございます」。議員からは「国会軽視だ」といった怒りの声が上がった。
20日の衆院予算委でのやりとりもひどかった。従軍慰安婦発言など一連の発言を撤回した後の経営委員会で「どこが悪いのか」と述べたと報じられたことについて、議員が質問した。籾井氏は「発言を差し控える」の一点張り。見かねた二階俊博委員長が説明を促しても応じなかった。
NHKは予算や事業計画で国会承認を得なければならない。政治の圧力にさらされやすい宿命がある。報道機関トップが国会に呼ばれ、追及の矢面に立たされること自体、いいことではない。
NHKが公共放送、報道機関として筋を通すには、国民、視聴者の支持が欠かせない。籾井会長はこの間の言動で、信頼を自分の方からぶち壊している。
NHKの20日の発表によると、会長発言について視聴者からは1万8400件の声が寄せられた。その6割は発言を批判する内容だったという。
このままでは会長発言への批判が受信料の不払いとなって噴き出す事態も考えられる。籾井氏は事態の深刻さをどこまで分かっているのだろう。
なぜこういう人が会長に選ばれたのか、との疑問があらためてわいてくる。NHK幹部の人事にはかねて政治の影が付きまとう。籾井氏の名前が浮上した経緯について、会長任命権限を持つ経営委員会は説明してほしい。そして事態収拾の手を打つべきだ。
籾井会長の言動は今もNHKの信頼を傷つけ続けている。手をこまねいているときではない。