2013年最後の取引となった30日の株式市場では、日経平均株価が9日続伸して年初来高値を更新した。年間の上昇率は57%と1972年以来、41年ぶりの高水準。この日の東京証券取引所第1部の売買代金も活況のサインである2兆円を超え、買い意欲の強さを印象づけた。東証が開いた大納会には、安倍晋三首相が特別ゲストとして登場し「取引所の最高の『おもてなし』」と、高値で迎えてくれたことに感謝した。
エプソン株は12年まで世界最大の懸案だった「欧州危機」が最悪期を脱するとともに上昇した。1年で4倍と、日経500種平均株価採用銘柄のなかで上昇率トップ。先進国では高価格品にシフトし、新興国では印刷コストが安い大容量インクタンクモデルを投入したインクジェットプリンター事業が好調なだけでなく、通貨ユーロが復調した為替効果も大きかった。
同社の収益はユーロ相場への感応度が高く、1円円安が進むと利益を11億円押し上げる。13年7~9月期の連結営業利益は前年同期に比べ240億円増えたが、うち6割が為替効果。前年同期には1ユーロ=98円台だった相場が131円台まで円安に進み採算が改善した。欧州では、危機下で欧州中央銀行(ECB)が域内銀行に供給した資金の返済が進み、ECBのバランスシートは縮小している。通貨の供給量の差から対ドルでも買われ、年末にかけてもユーロ高・円安が加速している。
13年、振るわなかった代表例がコマツ。年2%の下落は「新興国リスク」を映した。業績悪化の震源地はインドネシア。米国が量的金融緩和の縮小を探り出した5月以降、経常赤字の大きい同国からは資金が流出し、海外マネーを支えにした炭鉱開発は減速している。
もっとも、米国が緩和縮小を決めた12月18日以降、コマツの株価は戻している。縮小が新興国に配慮した緩やかなものになるとの観測が市場に強いほか、通貨危機が起きた1990年代と比べると経済基盤が強固になったとの評価も浸透した。成長力の低下にはなお警戒感が強いものの、深刻な危機は回避できるとの見方が優勢になっている。中国でも、油圧ショベルの販売台数が夏場以降、前年同月比2~3割のペースで回復し安心感につながっている。
翻って日本。「デフレ」脱却期待を象徴した1つが不動産投信(REIT)だろう。春に日銀が異次元緩和の決定に向かい出すと急上昇し、9月の東京五輪の開催決定を受けても買われた。地価や賃料の上昇期待が市場で高まっている。12月30日には最大手の日本ビルファンド投資法人の投資口価格(株価に相当)が一時、前週末比6%超と大幅上昇した。実質新年度入りし、投資信託などを通じた資金が流入したとみられる。
米国が金融危機から立ち直り、欧州や新興国の経済にも世界を揺るがすような危機は想像しにくくなった。アベノミクスは道半ばながら、企業の利益は15年3月期に過去最高を更新する見通し。そんな安心感が世界の投資マネーのリスク志向を強めている。では、14年の株高持続に死角はないのだろうか。
1つの火種は政治だ。米国は11月の中間選挙以降に債務上限問題が再燃する恐れがある。5月開催の欧州議会選挙では、各国で台頭する極右政党が存在感を強め「政策進行の遅れにつながりかねない」(ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり上席研究員)
新興国も14年は政治の年だ。インドの総選挙では、改革派の最大野党が勝利すると見込まれ、株式市場で買い材料視されている。ただ「政権交代への期待が高すぎる。野党が単独過半数を取れないなどで、思わぬ反動があるかもしれない」。第一生命経済研究所の西浜徹主任エコノミストは警戒する。
日本はどうか。安倍首相はニューヨークやロンドンで現地の要人や投資家に「バイ・マイ・アベノミクス」と訴え、市場を重視する姿勢が評価された。株高が政権基盤を強め、経済政策を実行しやすくなる環境ができた。安倍首相が30日、首相の出席は初めてとなる大納会に出席したのも、この好循環を意識してのことだろう。
ところが、安倍首相が26日に実行した靖国神社への参拝が好循環に水を差す可能性がある。メリルリンチ日本証券の神山直樹チーフストラテジストは「投資家は安倍首相が唱えてきた経済優先を疑いかねない」という。外交問題が緊迫化して優先順位が変わり、野党にも経済政策で妥協する場面が増えるようになれば、株高の持続は危ういだろう。
<日経電子版より>