「スマートフォン版の企画を始めた段階から、ぜひ『3DS』でも出そうと決めていた。構想からは2年以上かかってしまったが、ようやくこの日を迎えられた」
12月12日に発売された、携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」用ソフト「パズドラZ」。その記念イベントで、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの森下一喜社長は満面の笑みでこう語った。
今年11月時点で国内累計2100万ダウンロードを突破するなど、驚異的な大ヒットとなっているスマホ向けゲーム「パズル&ドラゴンズ」(通称、パズドラ)。2012年2月のサービス開始から2年近くが経過した今でも、iOS向け、アンドロイド向けとも国内売り上げランキングで1位をキープし続けている。
目下は海外展開も加速し、北米市場で200万ダウンロード、韓国でも100万ダウンロードを達成。英国など欧州7カ国でもサービスを開始した。
こうしたパズドラ人気をフルに満喫した2013年1~9月期は、売上高1162億円(前年同期比9.9倍)、営業利益685億円(同28.4倍)をたたき出している。月ごとのバラつきはあるが、単純平均で1カ月の売り上げは130億円、営業利益も76億円を稼いでいる計算となる。
「ランキングでトップ10に入っても月商1億円程度」(業界関係者)というスマホ向けゲーム市場において、パズドラがいかに驚異的なコンテンツであるかがわかる。
■20~30年後の潜在ユーザーを開拓
そのガンホーが、満を持して3DS向けに発売したのがパズドラZだ。
このソフトは、本家パズドラの世界観をそのままに、ストーリー性やゲーム性を高めたパズルRPG(ロールプレイングゲーム)。3DSの通信機能を使って、仲間モンスターの交換なども楽しめる。
しかし、3DSのようなコンシューマーゲーム機の国内市場は「100万本で大ヒット」という世界。ソフト1本の販売価格が4000円だとしても、売り上げは40億円程度にしかならない。前述のように平均月商130億円をたたき出すガンホーが進出するには、割の合わない分野に思われる。
それでもなお、ガンホーがコンシューマーゲーム機にこだわったのはなぜなのか。エース経済研究所の安田秀樹アナリストは「小学生を対象として、20年~30年後の潜在ユーザーになりうる低年齢層にブランドを浸透させるため」と分析する。
大型のIP(知的財産)となりうるコンテンツは、アニメかコンシューマーゲーム機からしか生まれない、というのが業界の定説だ。任天堂のキラーコンテンツに育った「ポケットモンスター」シリーズはまさにその典型。第1作の発売当時、小学生だったユーザーが成長し、今の主力ユーザーは大学生となっている。
■コミック誌やコンビニで布石着々
狙うは、ポケモンの再現。そのための布石も打っている。
小学生向けのコミック誌『月刊コロコロコミック』では、12月からパズドラZの漫画連載がスタートした。同誌の「発売がまてないゲーム」のランキングでは、ポケモン最新作を抑えてパズドラZが首位に立った。
また、パズドラZの発売に合わせて、セブン-イレブンやTSUTAYA、ピザーラとの連携イベントを実施し、店頭でのプロモーションも行った。
「アニメーション部分は作り直しを繰り返して、本当にクオリティが高い」(ガンホーの山本大介「パズドラZ」プロデューサー)ため、当然ながらアニメ化への期待も高まる。「今のところ、その予定はない」(同)とするものの、大型IPとなりうる下地は着実に整いつつある。
ガンホーの業績は足元も高水準が続いているものの、直近の2013年7~9月期は同年4~6月期と比べると減収減益となった。そのため、株式市場では「ピークを過ぎたのではないか」ともささやかれている。
はたして、パズドラは任天堂におけるポケモンのように、市場の不安を払拭し、今後もガンホーの屋台骨を長きにわたって支えていける大型IPとなりうるのか。パズドラZはその展望を占う、格好の試金石といえそうだ。
(風間 直樹)