先進国経済はずっと先まで超金融緩和環境を享受し、各中央銀行はこの超緩和がすべての政策の中で最も害がないと確信している──。こうしたメッセージが浸透しつつある。
金融バブルや、ゼロ金利と紙幣増刷に絡む不公正さに異議を差し挟む声はあるものの、国際投資家の間では資金調達コストが安い状況が長期間続くという点については驚嘆すべきほど確実な見通しが共有される形で、今年が終わろうとしている。
米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和(QE)の縮小をちょっと示唆しただけで金融市場が見せた反応の大きさは、多くの人々に重要なポイントが何かを明らかにした。またたとえFRBが来年緩和縮小に動いても、日銀や欧州中央銀行(ECB)が緩和を拡大してそれを穴埋めする可能性もある。
これは資金運用担当者がもろ手を挙げて、超金融緩和を応援しているというわけではない。先週のロイター・インベストメント・アウトルック・サミットで発言した市場関係者の多くは、超金融緩和の長期的な有効性を疑問視するとともに、それが引き続き株価の最高値更新をもたらしたとしても、政治的・社会的な悪影響が生じることを懸念している。
彼らによれば、金融資産の保有者が失業者や低賃金労働者よりも「QE」から受ける恩恵が大きいなら、既に偏っている富の配分の歪みを増幅させ、米国や英国、その他の地域で収入格差を広げてしまい、未曾有かつ計り知れないほどの政治的緊張をもたらすという。
もっともこれらの懸念があっても、日米欧の金融当局者発言を真剣に受け止めるなら、ゼロ金利やQE、異例の信用緩和は継続するほかなさそうだという見方が支配的だ。
アムンディ(運用資産1兆ドル超)のパスカル・ブランク最高投資責任者(CIO)は「われわれは中銀に対して業界として全面的にロングだ。中銀による政策正常化の懸念はかなり誇張されている。
われわれが目にしているのは中銀のDNAの変化であり、非伝統的と考える手段は今後れっきとした政策理論になる。経済事象ではしばしば見られるように、理論は実践の後からやってくる」と述べた。
サマーズ元米財務長官は今月の講演で、米経済が何年にもわたって「定常的な停滞」に陥る局面が到来するとの見通しを語った。
同氏の発言のポイントは、現在の低成長と低金利が長期間持続し、その結果として資産バブルが起きるのは避けられず、また副産物として受け入れは可能だとすることにあった。
同氏は、2007年に過去最大のクレジットブームが起きたのに、インフレや賃金の上昇が見当たらず、労働や資本設備の需給ひっ迫も存在しない点に言及して「『大いなるバブル』でも総需要面における過剰を生み出すには不十分だった」と語った。
QEのわなもし成長率が潜在成長率を下回り、金利が最低水準で推移する「定常的な停滞」がこの先長引くなら、流動性の後押しを受けて社債や株式、不動産が選好されるというのは、少なくともコンセンサスの予想となっている。
一方でカルミニャック・ジェスティオンのディディエ・サンジョルジュ氏など一部の人々にとっては、定常的な停滞という事態は、全面的に「QEのわな」に陥ったままであるのかもしれないと受け止められている。
すなわち、5年前に経済的な破局を防いだ代償を長期間かけて支払っている形だという。
QEを通じて人為的に金利を低くすることで、2008─09年に経済がもっと深刻な不振に突入するのを防止したのは明らかだが、金利を抑圧した結果、景気回復は勢いが弱められるとともに、期間が引き伸ばされている。
経済活動が上向くたびに、短期的に金利が上がって景気回復の動きを圧迫する形だ。
サンジョルジュ氏は「それがQEのわなだ。つまり景気回復は緩やかになるものの、必ずしも悲しい結果に終わるわけではない」と語り、中銀が粘り強く政策の微調整を行うことで景気回復局面を長期的に運営していけると付け加えた。
ベアリング・アセット・マネジメント(運用資産600億ドル)のマリノ・バレンシスCIOは「問題は金融当局が、そもそもQEを解除できるかどうかにある。不可能ならそれは苛立ちももたらす」と話す。
インベステック・アセット・マネジメントのフィリップ・ソーンダース氏は、インフレが大幅に鈍化する見込みがあるならQEはより長く固定され、既に起きているさまざまな歪みが助長される可能性があるとの見方を示した。
それでもアムンディのブランク氏は「中銀に選択の余地はない。金利正常化に関してはずっとたくさんのリスクが存在する」と主張している。