「重厚かつエンターテインメント性を兼ね備えた社会派の人間ドラマが描ける、唯一の女流作家といっても過言ではない。今はただただ残念でなりません」(作家の麻生千晶氏)
「白い巨塔」や「大地の子」「沈まぬ太陽」などで知られる作家の山崎豊子さんが30日、心不全のため亡くなった。享年88。
スケールの大きな作品群はたびたび映画やドラマの題材に。政官財の閨閥を描いた「華麗なる一族」やシベリア抑留がテーマの「不毛地帯」など、近年に再ドラマ化されて大ヒットした作品も多い。
「9月も新聞のインタビューを受けるなど、執筆意欲は旺盛でお元気でした。容体が変わったのはここ数日のこと」というのは、出版関係者だ。書店ではすでに追悼コーナーが設けられているが、急逝にがっくり肩を落とすのはテレビドラマの制作関係者である。
<大阪の自宅に“山崎詣で”>
「映像化に際しては原作者の了解が不可欠だったため、ドラマ担当の幹部が自宅のある大阪に“山崎詣で”をして、ようやく許可が下りていました。もちろん、主役などメーンキャストは山崎先生が首を縦に振らなければダメ。近年ではドラマなら唐沢寿明や木村拓哉、映画では渡辺謙クラスでなければ納得しませんでした」
絶筆となった週刊新潮に連載中の小説「約束の海」は8月に始まったばかり。旧海軍士官の父と海上自衛隊員の息子が、時代に翻弄されながら生きる姿を描く構想で、すでに第1部の終わりの20回まで書き上がっているというが、未完の傑作となってしまった。
「既存の作品も今後、繰り返しリメークされるはずですが、やはり新作がもう出ないのがツライ。『約束の海』も連載が始まるや、すでにドラマ化や映画化に向けて企画が動いていたので、未完は残念。ただ、遺族の了解が前提ですが、山崎さんの世界観を理解できる作家や脚本家が加筆すれば映像化は不可能ではない」(テレビドラマ関係者=前出)
前出の麻生氏は山崎さんの功績をこう振り返る。
「元新聞記者ならではの素材を見つける鋭い嗅覚と、視野の幅広さを兼ね備えた書き手はもう現れないでしょう。いずれの登場人物も丁寧に書き込まれ、しかも通り一遍ではなく、悪人の中の善、善人の中の醜にもスポットをあて、複雑な人間心理を描写した。“自分には書きたいものがある”という筆者の欲望がなせる業でした」
珠玉の作品群は残されている。更なるドラマ化、映画化が待たれる。