各種裁定取引

バラの会さん
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1.裁定取引

裁定取引(さいていとりひき)とは、市場間格差を利用して、リスクなく利益を得る取引のことをいいます。取引値段の開きのことを鞘(サヤ)といいます。

 為替相場が異なる市場で、「安い値段で買い」と「高い値段で売り」を同時に行うと、リスクなく利鞘取りが行えます。こうした取引機会が見つかると、誰もが取引に参加するため、安い相場の市場価格は上昇し、高い相場の市場価格は下落していきます。

 その結果、相場はある一定の水準に収束します。市場の需要と供給が均衡して、ただ1つの価格が市場に成立します。裁定取引が行われることにより、公正な市場価格が生み出されています。

 

 裁定取引は、取引の性格から、大きく為替裁定取引と金利裁定取引に分けることができます。

 為替裁定取引は、異なる為替相場間の格差や、期日の長短を利用します。一方、金利裁定取引は、国際間の金利差を利用します。

裁定取引

為替裁定

場所的裁定

時間的裁定

金利裁定

円投(外貨で運用)

円転(円貨で運用)

2.為替裁定取引

為替裁定取引は、場所的裁定と時間的裁定に分けられます。

≪場所的裁定≫

 場所的裁定とは、日本と米国というように、地理的に離れた市場で、直物為替の取引価格が違っている場合に行われる鞘取り取引です。直物為替レートがニューヨークで1ドル=110円、東京で1ドル=109.90円であった場合、東京市場でドルを買ってニューヨーク市場で売れば、1ドルにつき10銭(110-109.90=0.1)の差益が手に入ります。

 東京市場でドルを買う人が増えれば、東京市場のドルの価格は上がります。逆にドルが売られるニューヨークでは、ドルの価格が下がることになり、両市場での価格は一致するように動きます。

≪時間的裁定≫

 時間的裁定とは、期日の異なる為替スワップを売買することで、利鞘(りざや)取りをする方法です。

 例えば、将来に日米の金利差が拡大すると予想されるときに、3ヶ月先物買い(直売り先買い)と6ヶ月先物売り(直買い先売り)を同時に行います。

 すると、3ヶ月後スタートの3ヶ月先物売り(直買い先売り)の先物予約を作っておくことができます。

 3ヶ月後、ドル金利が予想どおりに上昇して日米の金利差が拡大すると、直先スプレッドも拡大します。

 そこで、3ヶ月先物買い(直売り先買い)という反対取引をすると、利鞘が得られます。しかし、予想がはずれて金利差が縮小すると、損失が出てしまう危険(リスク)のある取引です。

◆具体例

 上記の取引を具体的な数値例で見てみましょう。

 6ヶ月先物売りの取引は、直物市場での「$1=¥110でのドル買い」と6ヶ月先の「$1=¥108でのドル売り」がセットになったスワップ取引です。

 6ヶ月間に2円(110-108=2)のコストを取引相手に支払うことになります。

 3ヶ月先物買いは、直物市場で「$1=¥110でのドル売り」と3ヶ月後に「$1=¥109でのドル買い」がセットになったスワップ取引です。3ヶ月間に1円(110-109=1)が取引相手から受取れます。

 3ヶ月後のドル金利が上昇し、為替も円安に推移しました。ドルと円の間の金利差が拡大したために、直先スプレッドも拡大しています。

 3ヶ月先物買いは、直物市場で「$1=¥115でのドル売り」と3ヶ月先の「$1=¥113でのドル買い」がセットになったスワップ取引です。3ヶ月間に2円(115-113=2)が受取れます。

 一連の取引をまとめると、6ヶ月先物売りで2円を支払い、3ヶ月先物買いで1円を受け取り、さらに、3ヶ月後の3ヶ月先物買いで2円を受取って1円の利益を得ます。

    

(注)ここでは、説明を簡単にするために、実際の市場でのビッド(買い)とオファー(売り)の価格差や、資金の受け渡しが2営業日後に行われることなどは無視して例示しています。

3.金利裁定取引

 2国間の金利差直先スプレッド(直物と先物の為替レートの差)の乖離(かいり)を利用した鞘取り取引を金利裁定取引といいます。

 直先スプレッドと金利は、直物(スポット)為替相場の変動や貿易収支、経常収支、インフレ率、失業率などのファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)のほか、金融不安、国際政治問題、スペキュレーション(投機)に影響を受けて変化します。

 2国間に金利差があっても、直接、金利差分だけの収益が期待できるわけではありません。為替レートが変動するからです。収益を確定するためには、為替予約をつけておく必要があります。

 為替予約の価格が、直先スプレッドです。金利差と直先スプレッドは、常に一致しているわけではありません。

 直先スプレッドと金利差が一致している均衡状態をパリティと呼んでいます。直先スプレッドと金利差が一致していない不均衡状態をディスパリティと呼んでいます。

≪円転と円投≫

 外貨資金を円に転換して、円貨で運用する操作を円転(えんてん)といいます。逆に円資金を外貨に投入して、外貨で運用する操作を円投(えんとう)といいます。

 円転をして裁定機会が捉えられる市況を、円転の地合いといいます。円転の地合いは、スワップ為替予約のついたインパクトローン(外貨貸付)が有利な市況であることを示しています。
 一方、
円投の地合いは、スワップ為替予約のついた外貨預金が有利な市況であることを示しています。

◆直先スプレッド>金利差 →円転

 直先スプレッドが金利差より拡大しているときは、円転して裁定機会を捉えます。

例えば、直先スプレッドが年率で2.5%、金利差が2%(米ドル金利5%、円金利3%)であった場合、米ドルで外貨借入れをして為替予約をつけると、円貨での資金コストは2.5%(米ドル金利5%-直先スプレッド
 2.5%=2.5%)となります。円で運用益3%ですから、0.5%の利益が上がることになります。こうした裁定機会があると、円転用の為替スワップ(ドルの直売り/先買いのスワップ)への需要が増えていきます。

 直物市場では、ドルの直売りの圧力が加わりドル下落(円高)へ、先物市場では、ドル先買いの圧力が加わりドル上昇(円安)へ向かいます。その結果、直先スプレッドは、縮小してパリティ状態へ向かいます。

直先スプレッド>金利差  円転(インパクトローン)に裁定機会

          

◆直先スプレッド<金利差 →円投

 直先スプレッドが金利差より縮小しているときには、円投して裁定機会を捉えます。

例えば、直先スプレッドが年率で2%、金利差が2.5%(米ドル金利5.5%、円金利3%)であった場合、円貨借入れをドルに転換して運用します。

 為替予約をつけると、ドルベースでの資金コストは5%(円金利3%+直先スプレッド2%=5%)となります。ドルで運用益5.5%ですから、0.5%(5.5-5=0.5)の利益が上がることになります。こうした裁定機会があると、円投用の為替スワップ(ドルの直買い/先売りのスワップ)への需要が増えてきます。

 直物市場では、ドルの直買いの圧力が加わりドル上昇(円安)へ、先物市場では、ドル先売りの圧力が加わりドル下落(円高)へ向かいます。その結果、直先スプレッドは、拡大してパリティ状態へ向かいます。

直先スプレッド<金利差  円投(外貨預金)に裁定機会

          

3.為替スワップの役割

 為替スワップ取引が裁定取引に利用される結果、2国間の金利差と直先スプレッドがパリティ状態になり、どちらの通貨で資金を運用しても結果は同じになります。

 これは、2国間の市場が為替スワップ取引を通じて繋がっていることを意味します。為替スワップが国際間の金利市場の橋渡しをしているのです。

国際金融にとって、外国為替は重要な役割を果たしています。

          

≪まとめ≫

裁定取引

為替裁定取引と金利裁定引に分けられる

為替裁定取引

場所的裁定と時間的裁定に分けられる

場所的裁定…地理的に離れた市場で、直物為替の取引価格が違う場合に行う鞘取り取引

時間的裁定…期日の異なる為替スワップを売買して、利鞘取りをする方法

金利裁定取引

2国間の金利差と直先スプレッドの乖離を利用した鞘取り取引

パリティ…直先スプレッドが金利差と一致している、均衡状態

ディスパリティ…直先スプレッドと金利差が一致していない、不均衡状態

円転…外貨資金を円に転換して、円貨で運用する操作

円投…円資金を外貨に投入して、外貨で運用する操作

直先スプレッド>金利差…円転(インパクトローン)に裁定機会

直先スプレッド<金利差…円投(外貨預金)に裁定機会

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