仁(じん)
「心にもないおべっかを使ったり、顔色をつくろったりする者には、本当に他人に誠実な者は少ない」。それに、そういう人間は途中まではうまくいっても、どこかで必ず化けの皮がはがれるゾ。
◆学びて時にこれを習う、亦(ま)た説(よろこ)ばしからずや。朋(とも)あり、遠方より来たる、亦た楽しからずや。
以前に読んだ本をあらためて読み返してみると、こんないいことが書いてあったのかと再発見することがたびたびあって、とても嬉しい。志を同じくする友だちが遠方からやって来るのもまた嬉しく、人生の楽しみの一つだ。
◆過ちては改むるに憚(はばか)ることなかれ。
「過ちをおかしたときは、すぐ改めよ。少しも遠慮する必要はない」。分かっていても、簡単なよ
うでなかなか難しい。とくに立場や地位の高い人ほど、憚ってしまう。
◆過ちを改めざるこれを過ちという。
過ちは仕方のないこと。過ちをおかしても改めようとしないことこそ、真の過ちというものだ。
◆人の己(おの)れを知らざることを患(うれ)えず、人を知らざることを患う。
他人が自分の真価を知らないことを気にするより、自分が人の才能や力量を知らないことをこそ憂うべきだ。
◆故(ふる)きを温めて新しきを知る、以て師と為(な)るべし。
古いことを調べ尋ねて、そこから新しい発見を得られれば、必ず他人に学ばせることができよう。有名な四字熟語「温故知新」の出所だ。
◆仁者は難きを先にし獲(う)るを後にす、仁と謂(い)うべし。
仁者は、難しい骨の折れる仕事を自ら進んで引受け、それによる利益は問題にしない、これを仁という。
◆先ず其の言を行い、而して後(のち)にこれに従う。
「まず、言葉を口にせずそれを実行する、その後で自分の主張をする」。弟子の「立派な人間とは?」の問いに答えた言葉。「不言実行」あるいは「先行後言?」こそが立派ということ。
◆匹夫(ひっぷ)も志を奪うべからず。
「匹夫」は身分の低い男。「そのような男でも志が堅固ならば、誰もそれを奪うことはできない」
◆温にして厲(はげ)し、威(い)あって猛(たけ)からず、恭(きょう)にして安し。
「優しい一方で厳しく、威厳はあるが威圧的でなく、うやうやしくあるが窮屈なところがない」。孔子さまの”人となり”を弟子が評した言葉。齢を重ねたら、かくありたいもの。
◆君子は周(した)しみて比(おもね)らず、小人は比りて周しまず。
立派な人は、広く親しみ一部の人におもねることをしない。しかしつまらない人は、一部の人におもねって広く親しむことをしない。
◆君子に三戒(さんかい)あり
君子といわれるほどの者は、血気の定まらぬ若いときには色欲を戒め、血気盛んな壮年の時代には人との争いを戒め、血気が衰える年寄りになってからは欲深にならないように戒めなくてはならぬ。
◆君子は貞(てい)にして諒(りょう)ならず。
君子は正しいけれども、馬鹿正直ではない。
◆怒りを遷(うつ)さず。
怒りの気持ちを他人に向けるようなことをしない。八つ当たりをするな。
◆其の以(な)す所を視(み)、其の由(よ)る所を観(み)、其の安んずる所を察すれば、人いずくんぞ隠さんや、人いずくんぞ隠さんや。
人間の行動には、必ず動機がある。そして、その動機をどのように発展させて行動しているかを観察すれば、その人は絶対に自分を隠すことはできない、絶対に隠せない。
◆性(せい)相(あい)近し、習い相遠し
人の生まれ持った天性は似たり寄ったりで、それほど違いはないが、その後の習慣や教養が身についたかどうかで、大きな隔たりができてしまう。
◆人の過つや、各々その党(たぐい)においてす。過ちを観て斯(ここ)に仁を知る。
人の過ちというのは、それぞれその人物の種類に応じておかす。だから、過ちを見れば仁かどうかが分かるものだ。
◆位なきことを患(うれ)えず、立つ所以(ゆえん)を患う。己れを知ることなきを患えず、知らるべきことを為すを求む。
地位のないことを気にせず、地位を得るための正しい方法を気にかけるべき。自分を認めてくれる人がいないことを気にせず、認められるだけのことをするよう努めるべき。
◆父母に事(つか)うるには幾(ようや)くに諌(いさ)め、志の従わざるを見ては、また敬して違(たが)わず、労して怨みず。
父母に仕えて、その悪いところがあればおだやかに諌め、その心が従いそうになければ、さらに慎み深くして逆らわず、苦労はあるけれども怨みには思わないことだ。
◆これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず。
知っているというのは好むのには及ばない。好むというのは楽しむのに及ばない。
◆歳(とし)寒くして、然る後に松柏(しょうはく)の彫(しぼ)むに後(おく)るることを知る。
季節が寒くなってから、はじめて松や柏(ひのき)が散らずに残ることが分かる。そのように、人も危難のときにはじめてその人の真価が分かる。
◆君子は人の美を成す。人の悪を成さず。小人は是れに反す。
君子は他人の美点を伸ばして成し遂げさせ、他人の悪い点は成り立たないようにするが、小人はその反対だ。
◆我れ三人行えば必ず我が師を得(う)。其の善き者をえらびてこれに従う。其の善からざる者にしてこれを改む。
私は、三人で行動したらきっとそこに自分の師を見つける。善い人を選んでそれを見習い、善くない人にはそれを我が身に照らして改めるからだ。
◆父在(いま)せば其の志しを観(み)、父没すれば其の行いを観る。三年、父の道を改むること無きを、孝と謂(い)うべし。
父のあるうちはその志しを観察し、父の死後にはその行為を観察する。そして三年の間、父のやり方を改めないのを孝行という。
◆奢(おご)れば即ち不遜、倹なれば即ち固なり。其の不遜ならんよりは寧(むし)ろ固なれ。
贅沢をしていると尊大になり、倹約をしていると頑(かたく)なになるが、尊大であるよりはむしろ頑なのほうがよい。
◆貧しくして怨むこと無きは難く、富みて驕(おご)ること無きは易し。
貧乏でいて怨むことのないのは難しいが、金持ちでいて威張らないのは易しい。
◆唯(た)だ女子と小人とは養い難しと為す。これを近づくれば即ち不遜なり。これを遠ざくれば即ち怨む。
女と下々の者とだけは扱いにくい。近づけると無遠慮になり、遠ざけると怨む。
◆学びて思わざれば則ち罔(くら)し。思いて学ばざれば則ち殆(あや)うし。
せっかく学んでも、自分で考えてみないと知識は確かなものにならない。自分ひとりで考えるばかりで学ぶことをしなければ、独り善がりになって危険だ。
◆朝(あした)に道を聞かば夕べに死すとも可なり。
「朝、真実の道を悟ることができたら、その日の夕方に死んでもかまわない」。人の道の尊さを説いた言葉とされるが、一説には「天下に道理がゆきわたり、社会の秩序が回復したと聞きさえしたら、死んでもよい」との解釈もあるようだ。
◆利に放(よ)りて行えば、怨み多し。
利益ばかり求めるような行動をしていると、怨みを招くことが多い。
◆賢を見ては斉(ひと)しからんことを思い、不賢を見ては内に自ら省みる。
すぐれた人物に出会ったときは、その人と同じようになりたいなと思い、愚かな人を見たときは自分もそうではないかと反省する。
◆過ちを観(み)て斯(ここ)に仁を知る。
人がおかした過ちを見て、その人の仁徳が分かることがある。たとえば、真面目すぎたり勇気がありすぎたためにおかした過ちは、仁徳の表れであることを理解しなくてはならない。
◆益者三友
自分の利益になる三種の友だちとは? 正直な人、誠実な人、そして多くの見聞がある人。
◆知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼(おそ)れず。
知者は物事の道理に通じているから判断に迷うことがない、仁者はくよくよしない、勇者は事にあたって恐れることがない。
◆知らざるを知らずとなす。これ知るなり。
知っていることは知っていると認め、知らないことは知らないと認めよ。それが真の知識というものだ。
◆民は之に由らしむべし、之を知らしむべからず。
「為政者が、すべての人民に理解させることは難しい。人民を方針に従わせることはできるが、なぜそう定めたかの理由をいちいち知らせることは、なかなか難しい」。これを、「人民はただ法令によらしむべきで、知らせる必要はない」などと解するのは誤り。
◆君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず。
君子は、人と協調はするが雷同はしない。小人は、人に雷同はするが協調はしない。協調は大切だが、まちがった道理にはあくまで反対しなくてはならない。
◆吾れ十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順(みみした)がう。七十にして心の欲するところに従って、矩(のり)を踰(こ)えず。
私は十五歳で学問を志した。そして三十歳で一本立ちした。四十歳であれこれと迷うことがなくなり、五十歳になると天が命じたこの世での役割と自らの限界を知った。そして六十歳になったときには、人の言葉を素直に聞けるようになった。七十歳になると、自分の思い通りにふるまっても道に外れることはなくなった。
◆其の位に在らざれば、其の政(まつりごと)を謀(はか)らず。
「その地位にいるのでなければ、政治のことに口出ししてはならない」。責任のない立場をいいことに、勝手なことばかり言うな、ということ。
◆後生(こうせい)畏(おそ)るべし。焉(いずく)んぞ来者(らいしゃ)の今に如かざるを知らんや。四十五十にして聞こゆること無くんば、斯(こ)れ亦た畏るるに足らざるのみ。
若者はおそるべき存在だ。彼らが今の我々ほどになれないなどと誰が言えるだろう。ただし、四十歳や五十歳になっても世間に知られないようなら、恐れるに足らない。
◆徳は孤(こ)ならず。必ず鄰(となり)あり。
徳を守る人は孤立しているように見えるが、決してそんなことはない、必ず親しい隣人が現れるものだ。
◆君子は言に訥(とつ)にして、行に敏(びん)ならんと欲す。
「賢人は、口数は少なく、行動に敏捷でありたいと思う」。スピード感のある「不言実行」を説くもの。能書きばかり多いのはダメ!
◆知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ。知者は動き、仁者は静かなり。知者は楽しみ、仁者は寿(いのちなが)し。
知者は川の流れを楽しみ、仁者は動じない山の姿を楽しむ。知者は動的で、仁者は静的。知者は人生を楽しみ、仁者は寿命を全うする。
◆人、遠き慮(おもんぱかり)なければ、必ず近き憂いあり。
遠い将来まで見通して考えない人は、必ず急な心配ごとに悩むものだ。目先のことばかりにとらわれてはいけない。
◆己(おのれ)の欲せざるところは人に施すことなかれ。
「自分がしてほしくないことは、人にもしてはいけない」。弟子の「一言で一生守るべきこととは何か?」の問いに答えたもの。すなわち”思いやり”がいちばん大切!
◆成事は説かず、遂事は諌(いさ)めず、既往は咎(とが)めず。
できてしまったことはとやかく言うまい、やってしまったことは諌めまい、過ぎてしまったことは咎めまい。
◆君子はこれを己(おのれ)に求め小人はこれを人に求む。
「人格者は過ちがあるとまず自分を反省し、そうでない人は必ず他人のせいにしようとする」。そう言えば、よくいるよなあ、すぐ秘書や妻のせいにする政治家が。
◆人を以て言を廃せず
どんな人の意見でも、よい意見ならば採用する。善くない人だからということで、正しい意見まで採り上げないことはしない。誰が言ったかは重要ではない。
◆人を使うに及んでは器(うつわ)のままにす
人には向き不向きがある。人を使う場合、それを見極め、適当な場所に配すこと。そうすれば、その人は予想以上の力を発揮してくれる。
◆三たび思いて後これを行う
大事を始めるときは、三回考え直してから着手する。熟考してから、ことを実行に移すことが肝心。
◆辞(じ)は達せんのみ
言葉や文章は相手に十分通じればよいのであって、よけいな美辞麗句は必要ない。