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『為替差益は千差万別』

『為替差益は千差万別』
 

 

為替を恐れなかった任天堂 

 衆議院解散総選挙が発表されたのが2012年11月14日。そこから早くも4か月が過ぎたわけですから、そろそろ結果が出てくる頃です。今のところ期待先行の円安効果ですが、一部の企業でははっきりと為替差益が計上されています。

 

 2012年10-12月期ですから、9月末の水準77.82円から12月末86.64円まで約11%も円安が進んだところです。ちなみにこの期間の平均値は81.21円。毎日、こつこつと為替予約を取っていると円安効果はたいして享受できなかったことになります。

 

 個別企業で為替差益が大きかったところを見てみると、一位は何と任天堂。年間売上7~8000億、うち約8割が海外という企業ですが、それにしても222億円というのは大きすぎる。単純に考えれば3か月の売り上げが2000億円あったとして海外が1600億円。それが222億円という為替差益を生んだというのですから為替からのリターンが14%もあったということになります。

 

 一方、最大の海外売り上げを持つトヨタは意外に小さく134億円。年間売上2兆円、うち海外が7割という規模から考えるとこれは小さすぎる。単純にこの3か月間を全体で5000億円、海外で3500億円とするとその割合は僅か4%にすぎません。

 

企業ごとに異なる為替リスク 

 これは企業ごとに為替予約をいかに行うか、戦略が異なるために発生する差異です。通常、外貨建ての取引を行う企業はあらかじめ想定レートというものを設定し、それに合わせて計画を立て、売り上げを計上します。しかし実際には外貨が円貨に交換された時点で、計画とは異なる損益が発生するため、これを為替差益として別に計上しています(通常、営業外)。

 

 この時、任天堂のように、商品の単価が小さく、ほぼ全額現金商売と考えられる企業では、売り上げが立った時点から代金の回収までの期間が短いため、為替リスクにさらされている期間は短い企業もあれば、プラント建設のように完成までに多額の期間を要する企業とではおのずと為替リスクにさらされる期間が大きく異なります。

 

 そこでこの為替リスクを軽減させるために行われているのが為替予約という取引です。これは具体的には売り上げが見込まれたものの、代金が円貨として回収されるまでまだ時間があるものの為替をあらかじめ確定するためにそのレートを確定しておこうとするもので、輸出企業は外貨の売り予約を、輸入企業は買い予約を行います。そしてここで決定された為替レートと、売り上げを立てた時に想定された為替レートとの差が為替差益として事後的に計上されることになるわけです。

 

 

 

リーズ・アンド・ラグズという戦略

 従って、為替差益の現れ方は企業の形態、さらには為替のついての見通しごとに異なった結果となります。例えば任天堂のように代金の回収までの時間が短い企業はたいして為替予約を取り必要はない、と判断されるでしょうし、またこれから為替が円高となる、と判断する輸出企業は早め早めに為替の売り予約を締結するでしょうし、場合によっては来期の分まで予約しておこうとするかもしれません。輸入企業はその逆で、円高が定着した時には為替差益狙いで為替の買い予約をあまりとらなかったという実績もあります。

 

 これがリーズ・アンド・ラグズと呼ばれる為替戦略であり、輸出企業の場合、これまで何年も、何十年も円高に苦しめられてきたために、先の分まで前倒しで為替予約を締結しておくのが習慣となっていました。そのため今回のように、急に円安に為替市場が転換すると、本来ならば享受できたはずの為替差益が取れないこともありえます。

 

  次の表は2011年10-12月期に比べて2012年10-12月期の為替差益が大きかった企業をランキングしたものです。必ずしも海外の売り上げ規模の大きさ順に並んでいないことがわかります。それと輸出企業の代表格である家電メーカーの名前がありません。これもまた考えさせられることの多いところです。

 

売り上げが伸びている輸出企業は自然と円安による為替差益が発生する

 例えば海外での売り上げが好調な自動車メーカーでは、当初計画されていたよりも大きな売り上げが発生しています。こうなると本来予約していた為替の売り予約ではカバーできない部分が発生してきます。円安局面においてはこれが為替差益として計上されることになります。

 

 しかし家電業界のように、売り上げが低調な企業では本来予約していた為替の売り予約だと多すぎることも起こりえます。勿論、家電業界の場合、海外生産比率が高いために、実質的な為替リスクは極めて小さいのだ、という見方もありますが、それでも日本企業である以上、円貨に換算するときに為替差益は必ず発生してきます。

 

 但し、当たり前の話ですが、こんなに大きな差損益が発生するのですから、為替予約の仕事は会社経営を揺るがす仕事として、一担当者の裁量で決められるものではないというのが今の日本企業の常識です(かつてはこれが現場の好き放題にやらせていて経営が不安定になる企業が多くありました)。そうなると“和をもって貴し”とし、堅実経営をモットーとする日本企業が本当に円安を享受できるようになるには、円安局面が定着し、経営トップがこれを認識するまで待たねばならいということになりそうです。

<了>

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