『米国経済の小さな陰り』

バラの会さん
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『米国経済の小さな陰り』
 
 

ウォルマートの決断

 小さな報道であり、見捨てられそうなニュースですが、米小売りチェーン大手ウォルマート・ストアーズ(WMT)が7-9月期、10-12月期のサプライヤーに出す注文を削減する方針を明らかにしたそうです。理由は販売が目標に達せず在庫が増加しているためだということですが、何せ世界最大の小売業であるウォルマートです。注文の削減は他の商品業者やアパレル産業など様々な分野にも影響がでることは間違いありません。ひとまずは株価の動きを見てみましょう。

 それほど悪い形のチャートではありませんが、上値は確実に切り下がり、ダウやSP500とは異なるトレンドとなっています。気になったことはすぐに調べないと気が済まないたちなので、米国小売業の実態を掘り下げてみました。

在庫は適正水準だが大手は苦戦

 まず、在庫・出荷比率ですが、米国小売業全体では1.4か月分ですから、健全な水準です。リーマンショックの時にはこれが1.6か月を超えていました。

 

 次に大規模小売店ですが、驚いたことに前年比で見るとマイナスの水準となっていました。どこかおかしくなり始めているようです。

加えてデパートなどは、ここのところずっと前年比マイナスとなっています。

 これはもう構造的な売り上げの減少と言ってよい。日本のデパートが歩んできた道のりと同じパターンを歩き

始めたのでしょうか。

 確かに、シカゴにある米民間調査会社ショッパートラック(ShopperTrak)社が全米5万以上の小売店の売上高を調査したリポートによると、販売見通しは2.4%増となっており、これは景気後退から脱出した直後の2009年以来で最低の伸びにとどまる見込みだそうです。これが確かなら、米国の小売店による本年の年末商戦は「厳しい」ものが予想されます。

忍び寄る価格破壊

 さらに分析を続けます。品目別に最近の売り上げを見てみると、こちらでは、問題が見つかりませんでした。どれもこれも順調です。例えば、家電販売店を見ると、こんな感じです。

 ただ気になるのはネット販売などの無店舗業態の売上です。これは驚くほど堅調に推移しています。

 ひょっとして米国でも、消費者の行動が変化し、家族みんなで仲良くショッピング・モールに出かけ、たくさんの買い物をするのではなく、ネットやカタログ販売で安くて良いものを必要なだけしか買わない行動に変化しているとすると、これはゆゆしき事態です。国民全体がこうした行動に向かっているとしたら、日本で起きたように消費のあちこちで価格破壊が起こり、デフレが進行するかもしれません。

米国金利の急低下が示唆するもの

 今はまだ株式市場や為替市場では、今回のFOMCで量的緩和縮小が延期されたことを巡って、その余韻に浸っているようにも見えますが、9月5日以降の米国金利の動きを見ると、本当にそれだけが問題なのか、と疑いたくなります。

 緩和規模縮小がなくなったのですから金利は下がって当然なのですが、よく見ると一番低下しているのは5年あたりの中期債です。この背景には次期FRB総裁候補からサマーズ氏が外れ、早期(といっても1~2年の話だったのでしょうが)の利上げ観測が遠のいたことがあるのでしょう。しかし5年債利回りは大方0.5%も低下しています。

 ひょっとして、今回の緩和縮小見送りが、実は米国経済の鈍化懸念、あるいはソフトパッチと呼ばれるような現象の恐れ、もしくは、これは考えたくないのですが景気後退のリスクが見えたためだったとしたら、ぞっとします。こうなると米国株安・円高のサイクルに市場は突入し、日本株復活もなくなってしまいます。 しばらくTaperingなるものに振り回され、細かいところまで見ることを怠っていましたが、再び米国のファンダメンタルズを注視しなければならないところに来たようです。

<了>

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