充実した情報開示
投資は何より数字の世界ですから情報開示が非常に重要なのですが、なかなか日本では進んでいないのが実情です。その点、今回特集したくりっく365を運営されている東京金融取引所の開示資料は、数ある公的機関の中でも群を抜いて充実しています。まずはホームページをのぞいてみましょう。
エクセル・ファイルを加工してみよう
全部で26もの通貨ペアの、毎日の値動きがデータ処理されています。これらはすべて実際に取引された記録ですから、これからの戦略を立てるに当たり、おおいに参考にできるものばかりです。
では早速データを紐解いてみましょう。まずは試しに最近流行の豪ドル/円から。これは10月後半の記録です。
一番右端にあるのがスワップポイントと呼ばれる、金利差から生まれる一日当たりの利息です。豪ドルの場合、今、オーストラリアの政策金利が3.25%に対して日本が0%ですからこの金利差の一日当たりの利息が原理的にはスワップポイントということになります。この金額は1万豪ドル当たりの円貨ですから、簡単に言えば1万豪ドル=約82万円に対して1日70円程度利息がもらえることになります、
ただよく見ると、10月24日(水)と31日(水)はそれぞれ210円以上と通常の3倍以上のスワップポイントがついています。これはなぜかというと、水曜日に豪ドルを買うと、受け渡しされるのが金曜日となり、それを一晩持ち続けると土曜・日曜の分まで利息が付くことになり、その結果、通常の3倍の利息がもらえることになるのです。
ちりも積もれば山となる=円キャリートレードの基本
金利差というものは一見些少なものに見えて実は相場の世界ではこれぐらいしか信頼できるものがありませんから、合理的な決断を迫られる投資家であればあるほど、これにすがりたくなるものです。例えば株式投資で言えば、割安株投資と呼ばれる伝統的な投資戦略の基本が、配当利回りの高い銘柄を選ぶのと同じように、為替の世界では相対的に低い利回りの通貨を売り(つまりその通貨で資金を調達し)、相対的に高い利回りの通貨を買う(つまりその通貨にお金を預けるという意味です)が、昔から最もスタンダードな投資戦略でした。とりわけ日本の金利がゼロとなってからは、世界中の投資家がゼロ金利の円を売り高金利の通貨を買う、所謂、円キャリートレードが隆盛を極めました。
ではこの取引がどれくらいの効果をもっているのかを知るために、次のグラフをご覧ください。これは先ほどの豪ドル買い・日本円売りポジションを、2005年の7月から今年の9月まで持ち続けてきた時のリターンを表しています。単純に値段だけ見ればかつて85円だった豪ドルが紆余曲折の末今また80円台で取引されているに過ぎないのですが、この間、ずっとスワップポイントをもらい続けた場合、その価値はすでに110円程度まで膨らんでいることがわかります。
2012年のベスト・パフォーマーはポーランドズロチ
仕組みがわかったところで実際のマーケットの結果を見てみましょう。
以外にもこれまでのところ2012年、最もリターンが高かったのはポーランドズロチ買い・日本円売りという組み合わせです(逆に最もリターンが低かったのはポーランドズロチ売り・日本円買いという組み合わせになります)。しかし過去3年を見るとこの組み合わせのリターンは良くありません。
さきほど見た豪ドル買い・日本円売りもなかなか良いリターンです。おまけにこの組み合わせは過去3年を見ても良好です(ちなみに韓国ウォンの過去3年のリターンはくりっく365でまだ上場されていなかったために記載されていません。
一方、パフォーマンスが絶対値で見て低かった組み合わせは以下のようになります。気をつけなければいけないのは、例えば南アフリカランド買い・日本円売りにように、いくらスワップポイントで稼いでも、レート時代が大きく下落してちっとも儲からなかったものあるというところです。
新興国通貨は変動性が大きい
しかし今でこそ円が弱くなり外貨の価値上がっているのですが、今年は春先から夏にかけて結構円高が進みました。そこで今度は視点を変えて2012年、下落率が大きかった通貨ペアを選んでみました(ひっくり返して組み合わせれば短期的な上昇率が大きかった通貨の組み合わせになります)。
驚いたことに下落率が大きかった通貨は、南アフリカランド、ポーランドズロチ、インドルピーといずれも新興国通貨となっています(全て対円の価値)。これも市場でよく指摘されることですが、通貨もまた流動性に大きくその変動が左右されるものです。これは株の世界でもよく流動性の乏しい中小型株が売られると、短期的な下落率がきわめて大きなものとなることと同じです。
ユーロの下落を予想することが重要だった
さらに分析を進めるため、今度は過去3年のデータを全て年率化し、統計的な処理を施して比較してみます。
リターンの高いものを並べると、ユーロを売って何かを買う、という組み合わせが多いことに気が付きます。さらにリターンの高いものの上位3位までは全て豪ドルを買い何かを売るという組み合わせです。一言で言えば、ユーロが弱く、豪ドルが強かったということですが、これこそが過去3年の為替市場の縮図です。
一方、絶対値水準で低い通貨の組み合わせでは、リターンがほとんどゼロであるにもかかわらずリスクだけは結構高いものが存在しています。この場合のリスクとは1年間にリターンが平均値からどれぐらい上下するものなのかを表したものですから、どれもこれも通貨というのは毎年1割以上も平気で動く可能性が高いことがわかります。だとすればくりっく365の取引を行う時に必要となる証拠金の比率も、このリスクの数字以上の割合で設定しておく必要があります。
実際、このあたりのデータを知っているのか、あるいは直感的にわかっているのか、くりっく365のお客様の平均値が取引金額の2~3割の比率で証拠金を入れているということですから、なかなか日本の個人投資家は賢明です。
通貨取引を行う際に抑えておきたい重要な3つのポイント
以上の分析から見えてきたことをまとめると次のようになります。
最近のユーロのように、その仕組み自体が壊れてしまうかもしれないと不安視された通貨は弱くなるトレンドを持つものです。かつてはドルがそうでした。一方でオーストラリアのように、資源を持ち国家経営が安定している通貨は、ここ3年に見られたように、強含みで推移することが期待されます。これが通貨のトレンド決定する最大の要素です。
その一方で、まだ経済規模が小さく、何かショックがあった時に大きな資本流出が起こりうるかもしれないような新興国の通貨は、いざという時の下落率が大きくなることも押さえておかねばなりません。金利が高く成長性が高いからと、リスクを考えずに投資すると痛い目に合うことがあることは過去のデータを見れば一目瞭然です。
以上のポイントを確認したうえで、金利の通貨を買い、金利の安い国の通貨を売るというポジションを、慎重に作るべきでしょう。これが金利差に注目したトレードの基本動作です。そしてこの取引は、長く持てば持つほど効果がふくらみますから、時間を味方につけるのが得策です。このあたりの戦術はいずれまたマーケット・アナライズで紹介してみたいのですが、今日のところはここまで。くりっく365の開示データを使って戦略・戦術を考案することは、まだまだ無限の可能性を含んでいます。
<了>