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相関ヘッジ・アービトラージ・信用余力
8月前半の日経平均は、上がったり下がったりとボラティリティが大きい動き方をしているが、相場全体としてはやはり夏枯れ相場。大きなトレンドが発生しにくいので、資金をうまく回転させれば誰でも儲けられる簡単な相場だろう。(9月以降はこの手法は通用しないと思われる。)
個人投資家で両建て手法を使用しているトレーダーの日記などをみていると、買われすぎている株を売って、売られすぎている株を買う、というヘッジ手法が今週は目立っていたようだ。
仮に日本株が日銀緩和による金融相場から業績相場に移行した場合、今までのように全てのセクターに買い注文が入ることはないので、銘柄の選別を行うという判断はそれなりに妥当性があるように思われる。日経平均が先物主導で、信用ならない動き方をしている中、個別銘柄で乖離が収束拡大する過程を狙って売買した方が、安定しているのかもしれない。
こうしたヘッジ手法、
実際問題としてはどういった利点があるのだろうか?
私は、外貨取引をメインにやっているので、各通貨間のヘッジ手法について考えてみることにする。
(例1)
EUR/JPYの売り・USD/JPYの買いヘッジ
この場合は、EUR, USD, JPY の三通貨間のヘッジ手法となるのだが、
USD/JPY × JPY/EUR = USD/EUR (EUR/USDの売り)
となり、JPYのボラティリティが抑制され、EUR/USDの変動率が増加することになる。
(この変動率は、通貨の枚数ベースではなく金額ベースであること。)
ここで注目すべきは、EUR/JPYの売りとUSD/JPYの買いが金額ベースで一致したとき、それはEUR/USDの売りをしていることと完全に等しくなるということである。
これは、それなりに有効なヘッジ手法に見えるが、信用余力と資金効率で見た場合では、欠点が存在している。
(EUR/JPY1万円相当の売り)×(USD/JPY1万円相当の買い) = (EUR/USD1万円相当の売り)
上の等式を見ればわかるが、等式の左側に必要な余力資金は、それぞれ合わせて2万円分必要、
それに対して、右側では、同じポジションを作るのに1万円しか必要としない。
すなわち、信用余力による資金効率で見た場合、左側のほうが不利になってしまう。
でも、実際には、それぞれの運用状況で、EUR/JPYとUSD/JPYの運用資金を変動させていくので、左側の戦略のほうがいいんじゃない??・・という方は注意。
例えば,
(EUR/JPYの9000円相当の売り)×(USD/JPYの11000円相当の買い)= (EUR/USDの9000円相当の売り) × (USD/JPYの2000円相当の買い)
となり、こちらの場合も、左側の必要金20000円、右側11000円となり、左側のほうが不利な戦略になってしまう。
結論としては、
相関ヘッジ手法は、信用余力の観点から非効率な手法であるといえる。
しかし、これにも利点が存在する。
さっき紹介した
(EUR/JPY売り)×(USD/JPY買い) = (EUR/USD売り) の等式、
厳密には少しではあるが、ズレが発生する場合があるらしいのである。
このズレ、理論的には絶対に発生しないはずなのだが、ブローカーによる電気信号のバグや価格計算の遅れなどが要因で、コンマ数秒単位で乖離が断続的に発生している。
このバグを利用してアービトラージ取引を行う手法が存在している。
詳しくはwikipediaを参照してほしい。
Triangular Arbitrage
これはもちろん、外資系投資ファンドなどが高速コンピューターを利用して、秒速単位で争う世界であるが、個人投資家でもブローカーによっては利用可能な戦略である可能性がある。
FXを扱うブローカーによって、その価格提示はまちまちである。ブローカー独自の価格提示システムは、実際のインターバンク直結方式とは乖離する場合がある。
有名なものでは、「ストップロス狩り」が存在する。
本来、実際と異なる価格を提示することは、ブローカーにとって損失を意味するのであるが、個人投資家のストップロス帯域が集中しているところに無理やり価格を持っていくことで、その損失額を手数料が上回るとコンピューターが判断した場合、実際に価格と乖離させて、手数料を稼ぐのである。
しかし、これはアービトラージ運用者にとっては、思わぬチャンスとなる可能性もある。
注文のリクオートがなければ、有利な価格で注文することが可能となるかもしれないのである。
(無論、こうしたシステムは、かなりの開発者泣かせであるため、私はやらない。FXのブローカーは世界に何百社とあり、それをすべて調べろだとか無理である。)
そこで、これを利用した別の手法を考えてみた。
(例2)
JPY・USD・EURの三通貨間ヘッジ手法
通貨: ロング・ショート: 使用ストラテジー:
① (USD/JPY) ショートオンリー マーチン系
② (EUR/JPY) ロングオンリー マーチン系
③ (EUR/USD) ショートオンリー マーチン系
それぞれの3通貨のペアで、ロングもしくはショートオンリーのマーチン系システムを運用するというものである。
これは、通貨のトリレンマを利用している。
トリレンマと言えば思い起こすのが、「国際金融のトリレンマ」である。
国際金融のトリレンマでは、
①為替の安定
②独立した金融政策
③自由な資本移動
の三つが同時に実現しないということで有名であるが、通貨のトリレンマにおいては、
上記の①、②、③で同時に利益を発生することはありえないが、同時に損失を発生することもありえないという法則が発動する。
ストラテジーをマーチン系としたが、マーチン系でなによりも恐ろしいのが、①、②、③で同時にポジを取ってしまい、信用余力が足りなくなってしまうことである。
しかし、この場合、通貨のトリレンマが発生することにより、例えば①でポジを増やすと、②と③のポジが自動的に利益確定され、バランスが保たれることになる。
ただ、ここで気を付けないといけないのは、
①と②のポジションは、(EUR/USD)のロングオンリーのポジションを取っているのと同じことなので、これは③の戦略の反対を意味しているということ。
すなわち、これは、EUR/USDのロングショートのマーチン系ストラテジーを採用しているときと同じことを意味している。
しかし、前にも紹介した信用余力でいうと、EUR/USDのロングショート2戦略に対して、①、②、③の3戦略で、必要信用資金は1.5倍になる計算だ。
一方で、投資機会の観点からみた場合、
これは、EUR/USDのロングショートだけでなく、USD/JPY, EUR/JPYのロングショートで資金を回転させているのと同じことを意味し、資金効率3倍の重複化が起きているのだ。
投資機会効率の3倍を信用資金効率の1.5倍で割ると、その実質資金効率は、
3.0/1.5 = 2倍、 となり
実質、EUR/USDでロングショート戦略を起動させたときの資金効率の2倍の効果をもたらす可能性があるのだ。
(これはあくまでも私の仮説であり、実際の効果を保証するものではない。)
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