5月の株価は、始め13,854円、安値13,589円、高値15,942円、13,775円で終了しました。23日に1,143円、30日には737円安を記録、高値から15%の下落となり、昨年8月以降連続9ヶ月続いた陽線も、長い上髭を残して陰線となりました。
私は、今回の暴落を87年10月のブラックマンデーと同じ、上昇過程における不安心理によるものと見ています。株価の水準が合理的に説明できる範囲にあった点で、90年のバブル崩壊とは背景がまったく異なっています。
ブラックマンデーでアメリカでは22.6%暴落しましたが、日本では14.9%の下げにとどまり、半年後には回復しバブルに繋がりました。ドル金利引き上げ観測とFRB議長の交代時期が重なり、不安心理から売りが売りを呼ぶ展開になったのも似ています。
違いは日本だけの現象で、特定の外国人の売りによる需給相場の怖さを改めて見せ付けられました。需給は本来、不特定多数が参加することによって決まり、いずれはファンダメンタルに収斂されると考えられてきました。株価を市場の動きに任せて置けば、妥当な価格に落ち着くという理論です。そのため政府とか少数の関係者による介入は、価格の透明性を損なうとされてきました。
5月の市場は、価格上昇があまりにも急激だったために、市場関係者の多くに不安心理が広がってゆきました。そこに狙いを付けた特定の外国人は、まず先物市場で影響力のある日経225のうち、市場を動かす値嵩品薄株を買い占め、市場全体の先高感を盛り上げました。上がり過ぎ不安に思う人が増えたところで先物を売り、同時に買い占めた値嵩品薄株を市場に投げて、現物から暴落を誘い込みました。
証券取引所自慢の高速処理システムとプログラム売買の手法で、誰よりも速く大きな利益をえることができたのです。これが今回の暴落のメカニズムで、やり方はあのバブル崩壊のときとそっくりです。市場が、特定の参加者によってコントロールされたのです。
日本の証券取引システムの不備を突いたのです。これらの問題点は前から指摘されていたのですが、構造上の問題もあり簡単には解消されません。同じような暴落は今後も起こると考えたほうがよさそうです。
問題は今回の暴落が、これからの政局に与える影響です。というのも、株価と内閣支持率との間には、かなりの相関関係があるからです。今までの高い支持率は、株価のおかげという人もいます。その意味からも、今回のような外国人による仕掛けは、選挙前はないと見ていたのですが……。
暴落前の予想では、内閣に支持率も依然高留まりしていたので、選挙では改選議席121のうち自公が70議席を獲得し、非改選分とあわせ130議席(54%)と見ていました。非改選分で過半数に足りない自公連合は、相当がんばってもこの程度の僅差なのです。おまけに参議院選挙は政権与党に不利に働きます。
今回の株価下落のまま選挙に望むとなると、自公で3年前と同数の60議席程度となり、非改選分を合わせて120議席で過半数を割り込むことも想定されます。前回の安倍内閣と同様、参議院で法案が通らなくなり、何も決められない政治に落ち込む可能性すらあるのです。
株価が下がったとはいえまだ高値にあり、選挙には影響ないと思っておられる方も、これから出てくる内閣支持率と選挙情報には、関心を持たれることと思います。結果次第では、新たな株価暴落の原因にならないとも限りません。今回のアベノミクス相場がここまで来たのも政治が変わったからです。「株価の動きに一喜一憂しない」なんていっている場合ではありません。
ここでの対策は株価を安定させることです。市場に外国人が引き揚げるという不安が残るかぎり、それを利用してまた仕掛けてきます。成長戦略や財政の健全化といった政策を次々打ち出すのが一番なのですが、評論家が言うことで市場の不安は消えません。国債の購入はすでにやられており、残された手段としては、思い切った円安誘導と日銀のETF購入となります。ただ、円安誘導には副作用があり、選挙対策としては有効な手段ではありません。
日銀は暴落時にETFを買ってはいますが、外国人の売りに対しては微々たるものです。今後は暴落時ばかりでなく上昇時でも、決められた金額を一定割合で購入すると宣言すれば、外国人売りが収まり相場は上昇に向かいます。日銀が現在までに買い上げた株式は、恐らく10,000円ベースでしょうから、ここから買い上がっても相当な含み益が出ます。白川総裁に感謝しながら買い上げてゆけばいいのです。
日銀が市場から株を買い上げることについては、学者の間では評判はよくありませんが、今までも何回かやられて効果を挙げています。異次元の対策にはすでに織り込まれています。要はヘッジファンドに隙を与えないことです。
アメリカでは株式ではなく、住宅担保証券というきわめてリスクの高い金融商品を買い上げ、その値上がりで政府に莫大は利益をもたらしているのです。今回は特にヘッジファンドの売りに対する対策なので、それなりに理由もつきます。
もうひとつは、政府系の金融機関を使って株価対策(PKO)をやることです。現在までに株式保有を減らしていますので、国内株式の購入を積極的に行うことができます。これで、成長戦略や財政の健全化といった政策がとれ、株価も安定した上昇軌道に乗せることができます。
需給を安定させれば株価は安定し、選挙で安定した政治体制が作れます。
需給不安がある間は、彼らはまた仕掛けてきます。
暴落があるたびに、選挙で票を減らすことになります。
外国人が10兆円買ったなら、それに見合う見せ金を用意し、2兆円ほど買えば需給は改善します。
6月は、選挙見通しと株価対策に一喜一憂する値動きの激しい相場になりそうです。