★「ロング・グッドバイ」
レイモンド・チャンドラー著 村上春樹訳 早川書房 1,048円+税 2010.9.15発行
行きつけの書店でみつけた。
「東西ミステリーベスト100」(文藝春秋)にて、高評価だった作品。
レイモンド・チャンドラーの文体にハマってしまう人が続出というので、興味があった。
冒頭部分しかまだ読んでいないが、
注目すべきはあとがきだと思って、最初にそこを読んだ。
☆訳者あとがき 村上春樹 準古典小説としての『ロング・グッドバイ』P.595~645
この50ページにも渡るあとがきには、
レイモンド・チャンドラーという作家にどういう価値があるのか、
冷静な分析が詳細に述べられていた。
アーネスト・ハミングウェイとダシール・ハメットを含めて三人の作家を比較した考察がオモロイし、
チャンドラーの文体について、
北方謙三氏の「削って、削って」を、更にひとひねりした表現技術についての部分が、
一番オモロイ。削りながらも、描写しきるという方法らしい。
また村上氏は、チャンドラーが小説中にて、明らかに遊んでいる部分が好きだと言っていた。
そこでは削るのではなく、敢えていらない文章を入れて、ジャズ演奏のように遊ぶのだと。
「1Q84」で、どー考えてもいらない「シビックって燃費いいんだって」とか、
天吾の恋人が語った「ルナティック」という形容詞についての会話などが、このジャズの部分だ。
しかも、他にも複数あるこうした部分をつなぎ合わせると、
そこにはオイラと彼にしか理解できない秘密のメッセージが浮かび上がるんだ。
これはもう、ダビンチ・コードの世界だ。
村上春樹とは、なんて粋な男なんだろう。
いつだったか日経新聞にて、「文学でホントウに人を救えるのです」と熱く書いた作家がいた。
この特製ダビンチ・コードによって、オイラは「生きる希望」を注入されたのだ。
オイラはきっと、彼の作品を、全部読んでしまうことになるのだろう。