現在の円安進行は本物か
このところの 円安相場は、あまり深追いしないほうがよいかもしれない。
過去3カ月、円安ドル高に振れた要因は3つある。しかし、これらは今後の円相場を占う上で、どれも当てにならない。
まず、最初の要因とは、日本の新政権がより大胆な金融緩和政策を進めるとの予想から円の妙味が薄れたことだ。
第3の要因は、世界的なリスクセンチメントが以前ほど問題ではなくなり、日米間の金利格差によってドルを買う動きが復活したこと。
しかし、日本が大胆な金融緩和政策を実施する保証はない。
また、米議会で可決された「財政の崖」回避法案の影響で米国の景気が鈍化する可能性があり、そうなればFRBが再びハト派的施策を強めるかもしれない。
さらに、リスクセンチメントは薄らいでも、その後ふたたび急激に強まることもよくある。
もちろん、この3カ月半に円に対してドルが14.4%上昇し、過去29カ月の最高値となったことは注目すべきことだ。
野党自民党の総裁となった安倍晋三総裁が金融緩和に慎重な姿勢を見せる日銀に反発する形で、慢性的なデフレの解消に取り組むことを明言したこと受けて、相場は円安に向かい始めた。
円はそれ以来、下落を続け、昨年12月の総選挙における自民党の地滑り的大勝利で安倍氏が首相の座についた頃には、円売りが継続した期間としては20年ぶりの長さとなった。
安倍首相は日銀に対し、インフレ目標の引き上げや追加的な金融緩和の検討など、デフレ対策に取り組むよう引き続き求めている。
ただ、日銀の金融政策決定会合の開催は今月下旬であり、また白川方明総裁の任期は4月まで残っている。そのため、金融市場に織り込まれていると思われる金融緩和がすぐに実施されることは確実とは言い難い。
一方、現在のドル高は、米国景気が回復し、FRBは当初の予想より早く金融引き締め政策に向かい始めるとの楽観的な見方に促進されてきた。
ただ、先日議会で合意された「財政の崖」回避法案は、経済の見通しに不透明感を及ぼすと見られる。さらに、景気回復の妨げにさえなる可能性もあり、FRBがふたたびハト派的政策を追求することも考えらえる。
BNPパリバのエコノミストらは第1四半期の成長率予想について、回避策に盛り込まれた給与税増加を織り込み、従来の2%から1%に引き下げている。
最近の対円ドル高は、ドルと円の金利差の拡大に促された面もあるが、円を資金の安全な逃避先にしていた世界的な緊迫感が改善したことも寄与している。
ユーロ圏の債務危機が再燃することは現時点ではないとする楽観的な見方や世界経済が回復に向かっているという期待感だけでなく、中東の武力衝突が下火になっている状況さえも円安トレンドに貢献している。
しかし、2012年より2013年のほうがリスクの低い年になるかは極めて疑わしい。
ユーロ圏の政治家らは依然として、危機に対する持続可能な解決策の策定に苦しんでいる。
世界的な景気回復もまだ確実とは言い切れない。そして、中東情勢はいつ緊迫化しても不思議ではない。
これらを総合的に考慮した場合、最近見られる対円ドル高は少々時期尚早と思われ、急激な円安が今後も続く可能性は高くないだろう。