このシリーズは3話完結で、今日は最終回。「1万円を誰が買うか」です。
株価を予測する上で、需給はもっとも大切な要素です。1万円までを買う人は、1万円以上で買ってくれる人がいると思うから買うのです。
ここまでの株価は、円安が引っ張ってきたことは事実です。売買の主体も、どちらかというと短期の資金が中心でした。円安と株価の上昇は、きれいに重なります。円安に反応したヘッジファンドが先物を買戻し、日本人はむしろ信用で売っています。この資金だけで相場を引き上げて、1万円にするにはもう5円ほどの円安が必要です。
私はこれからの株価ドライブは、1万円以降の株価が、更に高くなると見ている長期資金が、主役になると見ていますです。海外の年金資金は、リーマンのときに、日本株をほとんど処分し、以後円高のために買っていません。国内の富裕層の資金も、デフレ化で資産を銀行と海外株にして日本株から逃げています。これらの資金が、インフレ期待から、今後の相場の主体になります。久しぶりの汐の変化です。
長期運用資金は、企業収益がどのように変化するかが最大のポイントです。世界景気が落ち込もうとも、中国で日本製品排除の動きがあろうとも、円安で競争力をつけた日本の商品が海外で売れ、為替メリットを受けた日本企業の収益が、確実に増加すると見れば買います。
国内の需給ギャップが大きいので、インフレにはならず、待機資金は動かないという人もいます。輸出が増加し、企業収益が増えれば、設備投資も、公共投資も増大し、中小企業も個人も懐が豊になり、バブリーなお金が、需給ギャップを埋めます。
企業収益の増加はあっても、上場企業平均では小さいので、株価上昇は限定的との見方もあります。「もう、いい加減にせい!」といいたいのですが、あえて質問。
「あなたは、89年バブル最盛期のEPSが、いくらだったかご存知ですか?」
「・・・」、答えは、「660円」で、今期の予想とほぼ同じです。それを60倍まで買って、3万9千円になったのです。売買主体が、外国人と機関投資家に移った現在では、こんな水準はないでしょうが、PERが20倍になることは、十分考えられます。株価水準は、そのときの気持ちで、どうにでもなるのです。減益予想が増益に変わり、期待値が上がると、長期投資家は読むのです。
民主党政権が誕生した2009年8月31日、1人だけになってしまった私の株友が、
「ユウサン、金持ちを大事にしない党が、政権をとったら株は終わりだね!」といって、持株を全部売り払ってしまいました。結果は、リーマンショック後の立ち直りを信じて、売らなかった私の完敗。その彼も、
「ユウサン、年取ったら、金は使ったほうがいいよ。あの世ではいらないからね」の言葉を残して、今は天国です。天国で株を買い始めているかもしれません。
民主党政権での株価4本足は、始め値10,493円(09/8)、高値11,408円(10/4)、安値8,136円(11/11)、終り値8,664円(12/11)となっています。これが民主党政権の評価です。
私は、投資家の端くれですから株を持っています。それだけに、株価上昇にバイアスが掛っています。昔は、投資家はすべて株の値上がりを望んでいましたが、今は売り主体の人もいれば、下がったほうが利益になる機関投資家もいます。
この欄の参加者は、売り中心や、株を持っていない人で、半分くらいにはなるのではと推測しています。私は株を持っていない人の意見は、あまり参考にしません。多少バイアスが掛かったとしても、同じ仲間のほうが信頼できるからです。
さて、今回の株価上昇の立役者は、何といっても自民党の安倍総裁です。彼の円安と日銀に対するインフレ目標発言が、市場を引っ張り、ここまで持ち上げました。
市場では、まだその実現を危ぶむ声も多いようです。民主党政権で失われた国民の信頼回復には、言ったことを実行するしかありません。大阪の橋下市長があれだけ人気があるのは、口がうまいだけではありません。言ったことを実行したからです。
これからの政治家は、信頼されることが最も大切です。アメリカでは「うそつき」は、日本語よりもっと厳しい言葉です。「トラスト・ミー」は軽々しく発言しません。安倍総裁もこのことはよく知っています。
普天間問題に対する鳩山総理の発言を例にあげて、今回の安倍総裁の発言に疑問をつけた人がいましたが、次元が違います。円安に反対するのはアメリカでしょうが、自国でやっていることを、日本がやることに強くは反対できないでしょう。この程度の交渉がアメリカとできないようでは、首相はおろか外務大臣も務まりません。
安倍総裁は人を引き付ける発信力は抜群です。日銀総裁とのけんかでも、発信力だけで勝負が付いてしまいました。誰が次期日銀総裁になるかはしりませんが、発信力のある人でなければ、国際市場からの信頼はえられないことが実証されたのです。
野田総理も、早稲田の弁論部からNHKの記者を経て財務大臣になった安住氏も、スピーチがうまいといわれていましたが、失言がないというだけで、発言に魅力はありません。その点、ストレートにものをいう安倍総裁は、発信力にかけては、今までのどの総裁より優れています。とっさの言葉でも、「円安で何万人の雇用が確保された」とか、「日銀もデフレのデメリットをもっと深刻に考えろ」とか、従来の自民党政治の失点をうまくはずした表現力もなかなかです。
これからは、マスコミとの綱引きなりますが、党首討論でも従来通り、経済、外交、政治不信といった民主党の弱点に焦点を当て、攻めまくることです。民主党は、原発、TPP問題を持ち出すでしょうが、その際に安易に妥協しないこと。まだ首相になっていないのですから、守りに入っては駄目です。結果、足の引っ張り合いになり、票は第三極に流れるでしょうが、民主党の党勢回復には繋がらないと見ます。
今の株価は、自民党政権の経済政策によるパラダイム・シフトを織り込む形で動いています。政権交代がある限り、年内1万円の流れは変わりません。ただ、選挙は水物です。株価上昇を喜ぶ人ばかりではありません。私は、脱民主党に賭けて、ひたすら買って待っています。