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エジプト

:「エジプトの春」なお遠く、軍とイスラム勢力の権力闘争激化

【18日 ロイター】 チュニジア政変がきっかけとなり、中東地域で拡大した民主化運動「アラブの春」。エジプトでも約30年続いたムバラク政権が崩壊したが、その後の大統領選挙などをめぐる一連の出来事は、首都カイロ中心部のタハリール広場に集まった民衆が思い描いていたシナリオとは異なる結末を迎えている。

 反政府デモを行ったエジプト国民は、独裁者を退陣させ、同国で初めてとなる開かれた大統領選挙を実現させた。しかし今では、その全てをイスラム主義の大統領に奪われてしまう可能性が出てきた。それだけではなく、ムバラク前大統領を支えた軍の司令官らは現在でも同国を統治し続けている。

 エジプト最大のイスラム原理主義組織ムスリム同胞団は、傘下政党「自由公正党」のムハンマド・モルシ党首が、大統領選の決選投票で対立候補のアハメド・シャフィク前首相を破ったと発表。しかし一方で、同国を暫定統治する軍最高評議会は、当面は実権掌握を続ける方針を明確にしている。

 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のアンソニー・コーズマン氏はエジプト大統領選について、「選挙というより以前から継続している権力闘争」との見方を示す。

 現実的に考えれば、新たに選出される大統領は、民衆の怒りを和らげるためにムバラク氏を昨年退陣させた軍評議会に従う存在になるだろう。軍評議会は決選投票が終了した17日、暫定憲法を修正して軍の権限を強化する方針を発表するなどしている。

 ブルッキングス・ドーハ・センターのサルマン・シャイク氏は軍の権限強化について「ムスリム同胞団が(大統領選で)勝利した場合に備えた『保険』だ」と指摘。軍幹部らが、権力維持のためにはどのような手段を取るかが示されたと述べる。

 <権力闘争の過熱化>

 専門家らは、ムスリム同胞団と軍評議会による権力闘争が今後エスカレートすることはほぼ確実だとみている。エジプト経済を支配する軍評議会は、長年にわたり敵対してきた同胞団に権力を移譲する意図が全くないことを示唆している。シャイク氏は、両者間の競争は過去数十年にわたって蓄積されてきたものだとし、「今後、爆発する可能性がある」と指摘する。

 同胞団の大統領選での勝利が妨害されるシナリオは多く存在する。選挙の監視団体は投票がおおむね適切に行われたとしているが、不正行為があったとの報告が出る可能性もある。

 複数の外交関係者は、7月1日までの民政移管実施を順守するよう、軍評議会のタンタウィ議長に圧力をかける存在となるのは、これまで軍評議会を支援してきた米政府だと指摘している。

 大統領選の決選投票で、有権者の多くはムバラク氏の後継者かリベラル思想の抑圧が懸念される宗教政党の候補者との選択を迫られた。民主化についての政策などを強調することのなかった2人の候補者は、反政府デモに参加した民主化を切望する市民らを遠ざけた。

 昨年11月から今年1月に行われ、イスラム政党が議席の約3分の2を獲得する大勝を収めた人民議会選挙について、最高憲法裁判所は14日に違憲判断を下した。軍評議会はこれを受け、議会の解散を命令している。

 同胞団は議会解散命令に反発し、「危険な展開となる」と警告しているが、外交関係者らは、ムバラク政権下で非合法だった同胞団が軍評議会との武力衝突を計画する可能性は低いとの見方を示す。武力衝突が起これば軍評議会に弾圧の口実を与えることになるからだという。

 <権限なき大統領も>

 同胞団は当初、大統領選で候補者を出さない方針を明らかにしていたが、その後一転して独自候補を擁立。これを受けて軍との緊張が高まっていた。

 多くのエジプト国民にとって、自国で起きた革命は今や軍幹部らの政変の「犠牲」となってしまったように考えられる。軍はムバラク氏を退陣させたものの、過去60年間にわたって政権を支配してきた旧体制を続けている。

 1952年に王制を打倒して以来、エジプト軍はあらゆる産業で商業的利益を確保してきたほか、米国との緊密な同盟関係を築いてきた。これらの利益と同盟関係を構築してきた軍が権力移譲を行う可能性は低いとみられる。

 軍にとっての懸念は、同胞団によって国を支配する立場を脅かされることだ。また、イスラム勢力が反イスラエルを訴えることで、同国との外交関係が弱体化する可能性も大きな懸念となっている。

 これまで自ら指導者を選ぶ機会が一般市民に与えられなかったエジプトにとって、大統領選の実施は革新的な出来事だった。しかし、権限を骨抜きにされた大統領、解散が命じられた人民議会、そして憲法がない状態で権力支配を続ける軍評議会は、昨年始めにムバラク氏の退陣を目指して抗議活動を行ったエジプト国民が期待していたものではない。

 前出のシャイク氏は、「エジプトでは混乱と不安定性が拡大しつつある」と指摘。国内情勢は緊張を増して政情不安に陥っているとし、「今後起き得る事態は予測不可能だ」と述べた。

 (原文執筆:Samia Nakhoul記者、翻訳:本田ももこ、編集:橋本俊樹)

2012/06/20 10:58


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