急成長する新興企業が成長の果実を社会へ広く還元する方法は何か? 一つはできるだけ早くIPO(新規株式公開)に踏み切ることだ。IPOによって初めて個人投資家、つまり一般大衆をオーナーとして迎え入れることができるからだ。(フジサンケイビジネスアイ)
このほど米NASDAQ市場へ上場した米フェイスブックは、違う道を選んだ。可能な限りIPOを避け、株式非公開(非上場)のままで経営を続けようとしたのだ。創業8年余りの新興企業とはいえ、5月18日のIPO時の公開価格で計算すると、株式時価総額は1040億ドル。1ドル=78円で換算すると、8兆円強になる。マクドナルドやシティグループをも上回る“大企業”になるまで、IPOを延期してきたともいえる。
2000年にピークを迎えたIT(情報技術)バブルの反動かもしれない。当時、「現在は赤字でも将来はインターネットを追い風に大化けする」との見方から、いわゆるドットコム企業が鮮烈なIPOで株式市場を席巻していた。バブルがはじけると、多くのドットコム企業がつぶれていった。結果として大勢の個人投資家が大きな損失を被った。
9億人のユーザーを抱え、昨年に10億ドルの最終利益を計上しているフェイスブックはどうか。個人投資家の利益は守られたのか。IPO後の状況を見る限り、やはり個人投資家が大きな損失を被っている。公開直後から同社株は大幅下落を繰り返し、ちょうど2週間後の6月1日終値で公開価格から27%下落、金額にして280億ドルの富(時価総額)が吹き飛んだ計算になる。
個人投資家はIPOを待たなければフェイスブック株を買えない。「フェイスブック株を買いたい」と子供に促され、購入した父親もいた。IPO以前に安値で同社株を買っていたのは、経営陣のほかベンチャーキャピタルやヘッジファンド、富裕個人など大口投資家だ。個人投資家の買いが殺到するなかで、大口投資家は売り抜けていたとみられている。
要するに、フェイスブックの成長の果実を手に入れたのはもっぱら大口投資家なのだ(引受主幹事のモルガン・スタンレーなど業者も多額の手数料を得ている)。今後フェイスブック株が急反発する可能性もあるが、個人投資家は高値づかみを強いられた格好だ。1年か2年前にIPOを実施していれば、フェイスブックは個人投資家に安値で同社株を購入する機会を与えることで、社会全体へ広く富を還元できたはずだ。
日本では「上場すると短期志向になる」「投資家に経営は分からない」などと、株式非公開を貫くサントリー型の経営を美徳と考える向きもある。だが、事はそれほど単純ではない。非公開を貫くというのは、創業者らインサイダーだけで富を独占するということでもあるのだ。