このたび長年の夢であった本の出版ができました。電子書籍でしたが・・・。
自費出版も考えましたが、金が掛かるうえに、作った本の始末が大変です。書店に並べてあげるといって、無知な作家から高い金を集め倒産した会社の例を見るまでもなく、自費出版では自分で引き取るか廃棄処分かです。結局「ただ」で友人などに送りつけても、喜んで見てくれる人は何人いるのでしょうか。市場価値がゼロの商品を作って、配ってみたところで、自己満足に過ぎないのです。
そんなことから出版は諦めていましたが、5月19日の日経に電子書籍が漫画本を中心に普及していると記事を見付け、電子化に最後の望みを託すことにしました。
アメリカではすでに電子書籍が、紙の書籍を上回っているようです。日本ではブームがくるといわれながらも、出版社も読者も今後の展開を見守っている状態です。
ただ、作家の立場からすると、出版の壁が劇的に低くなっています。従来は、出版は出版社にしかできなかったのですが、これからは誰でもできるようになります。アメリカでは、Self Publishingの技法が、アマゾンなどで開発されています。これを使えば誰でも簡単に、初期費用ゼロで売れた分の手数料を払えば、普通の本と同じに電子書籍がアマゾンの書籍棚に並べられます。
日本では従来から、出版社は自社のリスクで本を売り出し、作者は売価の10%ほどの印税を出版社から受け取っていました。ところが、出版不況のなか、出版社はリスクを取らなくなり、最近では名前の通った作家ですら、出版に際しては一定の負担を強いられているようです。ネットで「ただ」の情報が氾濫し、金を払ってまで本を買う「ものずき」は、だんだん少なくなっているのが原因なのでしょうか。
日本での電子書籍はまだ普及していませんが、電子化の技術や態勢は、アメリカに近づいています。後はビジネスとして、アマゾンのような電子書籍出版社が台頭するだけです。
私が選んだ電子書籍出版社は、あまり名前の知れていないIT企業ですが、出版の際の費用は不要で、売れたときに15%の手数料を払えばいいだけです。費用が不要のためか、カテゴリー別になっている株式・投資・経済情報分類でも、1週間で20件以上の新規販売登録があるようです。おそらく、全体ではこの何十倍もの数になるものと思われます。
作家から見て電子化のいい点は、費用がかからないこと、書棚・在庫が不要なこと、音楽、写真、動画などで表現力をつけられること、販売コスト・状況がリアルタイムで把握できることなどです。反面、製造に掛かる費用(原稿作成、レイアウト、飾り付け、イラストなど)や、宣伝などの販売促進はすべて作家持ちです。出版社は一切やってくれません。ここでは出版社というようりも、本屋さんとして考えたほうがよく、立ち読みしたり、ほかの本と比較したり、代金の決済などの本屋さんとしての機能は果たしています。
昔から本を出すことはステータスシンボルでしたが、出版社がその機能を閉ざしている以上、有名になるには電子書籍しかないようにも見えます。いろいろ問題はあるにしろ、電子書籍ブームはすぐそこまで来ているというのが私の実感です。
作家から見た問題点は次の通りです。
第一には、書籍の価格です。私は本の売価を500円としました。通常書店に並ぶ同種の本は1,000円程度ですので、電子書籍であること、装丁、話題造り、宣伝力の不足などから、商業出版物の50%程度で値付けをしました。本の値段は読者が決めてくれるのでしょうが、私としては500円の価値はあると思っています。
二番目の問題は本の宣伝です。書籍化する費用を払っていないわけですから、当然のことながら、販促はすべて作家が行わなくてはなりません。一般書籍と同列に新刊本を陳列して、読者が選択できるようなサイトが、アメリカのようにできるといいのですが。
ISBNという世界共通の図書コード(通常の書籍では出版社が取得し、本の奥付についています。有料ですが個人でも取得できるそうです)を取れば、アマゾンの“Amazon Digital Text Platform"に登録できるようです。日本語のプラットフォームができるまで、今しばらくの辛抱かもしれません。
その間費用を出しても、販促をしてくれるところを見つけたいと思っています。結局のところ、出版の壁は低くなりましたが、その分販売の壁が高くなったといえます。
三番目は、電子書籍閲覧ソフトです。今回は、アドビー社のPDFというソフトを使って電子化しました。このソフトは、有価証券報告書の閲覧用に使われているもので、今ではどのパソコンにもプリインストールされています。図形、グラフ、色彩などもかなり自由に選べますが、将来の閲覧ソフトが、「キンドル」のように白黒に限定されることを考慮して、色は写真を除き使用しないようにしました。
四番目は、電子書籍購入手間の問題です。作品の価値を認めていただいたとしても、購入するまでのパソコン操作が大変で、普通の人のパソコン知識で、はたして買っていただけるのか不安になります。これが電子書籍普及のネックになるのかと改めて体験しました。
せめて、スマートフォンがもっと普及して、お財布代わりに使えるようになり、書籍の購入が簡単にできるようになって欲しいと願うばかりです。
五番目は、著作権の問題です。電子書籍はいったんダウンロードしてしまうと、後はコピーしてもプリントしても友達に送ることもできます。そうなると作家の権利はどうなるのでしょうか。
日本では著作権は、公開してから50年間保護されるとあります。まあ、あまりうるさいことをいわないで、コピーされるくらいの本が出来上がればいいとしましょうか。紙の本でも、裁断してスキャナーで電子化する「自炊」が、公然と行われているご時勢ですから。デジタルの波は止めるわけにはゆかないようです。
さて、私の本の購入先は、DL-MARKETの下記サイトです。購入しないで「立ち見」だけで本の内容をチェックできますし、電子書籍がどんなものか参考になります。一度お立ち寄りいただければ幸いです。
http://www.dlmarket.jp/product_info.php/products_id/195270