「あなたは株でプロに勝てますか?」勝てるからやってるんだという人と、プロについている、プロを相手にしないからと、答えはさまざまでしょう。
日経新聞によると、現在市場で売買している個人投資家の90%は、短期取引だそうです。短期取引というのは、ゼロサムで誰かが勝てば誰かが負けるのです。つまり共栄共存はありえません。この市場の参加者は、ヘッジファンド、外国人、機関投資家、証券会社、それに個人が主なメンバーです。
問題は、ヘッジファンドを中心とした機関投資家と個人投資家との技術格差です。彼らは24時間休みなく世界各国の情報を集め分析し、日本市場で起こるさまざまな現象と市場の動きをプログラム化したアルゴリズム取引で、証券市場の超高速処理を駆使して、誰よりも早く注文を市場に出せる体制を作っているのです。
最近では、震災の予報にまで反応するプログラムを組み込んでいるそうです。ファンドマネージャは、プログラムに命令するだけで、後はひたすらモニター画面を注視し、最適な仕事をするプログラム作りに専念します。
市場の高速化も、彼らの取引形態を後押ししています。東証も大商も、世界一の高速処理をうたった売買処理システムを、競って導入しています。早ければ早いほど、彼らに有利になるのは明らかです。この市場で対峙する相手は、プロというよりもコンピューターと考えたほうがよさそうです。チェスではコンピューターに勝てなかったそうですが、あなたはまだプロに勝てると思いますか。
それでは、プロに弱点はないのでしょうか。最大の弱点は、短期で結果を出さなければならないことです。ファンドマネージャも1年で結果が出ないと首になります。そのため短期市場で利益を出すことに集中します。個人がプロと勝負して勝てるのは長期市場だけです。
「長期市場なんて存在しないじゃないか」その通りです。見えないからです。今では短期市場の裏に隠れて(バーチャルに)存在感はごく希薄です。この市場には、内外年金資金、保険、投資信託、資本取得を目的とした事業法人、個人の資産家といった長期に株を保有しようとしている人が参加しています。株価に対する見方も、日々の値動きよりも長期的な視野からの経済、企業業績の動向を重視しています。
昔はこの市場が表に出ていて、株価の形成もここから発信されていたのですが、長期投資に魅力がなくなってくると、参加者も少なくなって、今ではすっかり裏方に回ってしまいました。以前はこの市場の花形だった参加者たちも、今ではヘッジファンドなどに資金を委託し短期市場で運用しています。
とはいってもこの市場での需給が、短期市場を引っぱって行くことには変りません。短期市場は、膨大な資金がぐるぐる回っているだけで、方向性は出てきません。それに対して、長期市場はファンダメンタルを見て、市場に参加する資金の量が増減します。そのため3~6ヶ月先の株式市場の動きは、長期市場の需給動向を見るのが、一番的確だと思っています。
昨年の長期にわたる下落トレンドを作ったのも、この市場で国内金融機関と海外の長期系ファンドが大量に売り、日銀と年金資金の買いが支えきれなかったからといえます。今年も上半期まではこの傾向が続くという人もいますが、昨年中にほとんど売り切った海外の年金系資金が、再び回帰してきているため需給関係は改善しています。
政治の安定とデフレの収束期待があれば、長い間お休みしていた国内の旦那衆が、株式市場に戻ってきます。短期市場では、すでに昔の名前で活躍した人が、一部の株を動かし初めています。
私は、とっくにプロとの競争に白旗を揚げていますが、ゲームを楽しもうとする参加者にあえてやめろなどとは申しません。運がよければ大儲けして南の島で暮らせるかもしれませんし、損をしても夢の代金だと思えば諦めもつきます。
長期投資に魅力を失って短期市場に走った人が、また長期投資に戻るでしょうか。1月15日付の日経新聞に、某大学の教授の意見として、投資家が個々の銘柄の発掘を避けて安易な指数取引に走り、それが株式市場の魅力をなくしたと指摘していました。株投資は、指数に対してではなく会社に投資し、期待通りの発展と成果を分かち合うことが、本来の目的だとしています。株式市場をよく勉強されている教授もおられると感心しました。
プロと上手に付き合って、そのおこぼれに預かるというのはどうでしょうか。プロには共栄共存の考えはありません。プロだって生きるか死ぬかの生存競争をしているのです。プロのおこぼれは、プロにとっては明日の鴨を呼び込む手段くらいにしか考えていません。
それよりもプロを相手にしない市場を探すほうが賢明です。現在プロにあまり干渉されない市場として、ジャスダック、マザーズ、ヘラクレス、大阪の2部市場などがあり、これらの市場では、市場規模が狭いうえローカルな銘柄で構成されているため、外国人はあまり近づきません。
ここでは、アルゴリズムとか先物、指数取引は、まだ幅を利かせていないようです。個人投資家がプロと勝負はできそうです。ただ、「コンピューターおたく」でないプロと、ギャンブルに興ずる状況には変わりありません。
「それにしても、最近の株価見通しは当たらないね。年頭にテレビ番組で、1~3月に8千円割れと煽っていた某証券会社のF氏は、最近見かけなくなったけど・・・」
「放送局のほうも今年は、安くなると見ていたんだろうね。それで弱気のF氏にしゃべらせたんだろ」
「予想を信じて売っていた人は、かわいそうだね」
「株の予想とは、こんなもんだよ。ただ、需給から来る株価の見通しは、あまり外れないから、テレビでも新聞でも、需給についての報道や、解説は見逃さない方がいいよ」
「私も、今テレビでやっているSさんの見通しは、当たるような気がするんだけど」