“遠い国”北朝鮮の状況を探る手がかり
昨年12月に北朝鮮の独裁者、金正日総書記が死去したが、その長男である金正男氏と2回の単独会見を実現させた著者による、1年半にわたって150通のメールをやりとりした内容の緊急出版だ。金正男氏が日本のテレビ局などに対して短いインタビューに応じたことは過去にもあったが、これほどまとまった肉声が公開されるのは初めてとあって海外の反響も大きく、韓国での翻訳出版も決定。英語版は現在、電子書籍化に向けて翻訳作業が進められている。
初版3万部で1月20日に発行されたが、すでに4刷15万部と売り上げは好調。北朝鮮ものの出版物は従来、男性読者が圧倒的に多かったが、本書は女性読者が3割以上を占めているという。文芸春秋ノンフィクション局の新谷学さんは「意外だったが、韓流ドラマにあるようなお家騒動的な要素も注目されたようだ。金正男氏が日本滞在中にどんな店を訪れたかも盛り込まれ、人間味が感じられる内容となっていて『北朝鮮が身近に感じられた』という感想も多く寄せられている」と話す。
1995年ごろから中国を拠点にしている金正男氏が上海の発展を見て改革・開放政策の必要性を痛感し、金総書記に提言してきたことも明かされる。3代にわたる世襲には懐疑的で、腹違いの弟・正恩氏に対する評価にも厳しいものがある。韓国で発売され、日本語版も出た『マンガ金正恩入門』は「比較的事実に近い本」とも。「私が(自由に)行けないのは香港、米国、日本とタイだけ」「私が(留学で)完全な資本主義青年に成長して、北朝鮮に帰った時から、父上は私を警戒したようです」といった告白も興味深い。金正男氏を“保護”する中国の思惑についても考察。直接知ることの難しい国の状況を探る手がかりとなる労作だ。