【書評】『誠意が国を越えて人を動かす』平野藤一郎著

AAI Fundさん
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『誠意が国を越えて人を動かす 海外市場開拓にかけたビジネスマン半世紀』

 ■問われているのは人間力

 道を切り開く--。平野藤一郎さんがビジネスマン、経営者として歩いてこられた足跡をみると、そんな思いがする。変革期をどう生き抜くか。太平洋戦争の敗戦から立ち直るべく日本人一人一人が懸命に働き、1950年代後半から70年代前半まで日本は高度成長を続けたが、71年のドルショック、73年の第1次石油ショックを契機にがらりと経済構造、産業構造が変わってしまった。戦後、世界の基軸通貨となった米ドルは金との兌換(だかん)ができなくなり、通貨は変動相場制に移行し、このあと日本円はいわゆる円高の道を辿(たど)ることになる。産業を支える石油は従来の4倍も高い時代に突入、産業界も事業の再構築を迫られた。

 そのとき平野さんが所属するベアリング最大手、日本精工はプラントの輸出はもちろん、海外生産を展開するという戦略に打って出た。原材料を輸入し日本で生産し輸出する構造からの脱皮である。いわゆるグローバリゼーションのはしりである。

 当然のことながら一口に海外生産といっても困難が伴うのは当たり前。歴史、風土、習慣の違いの中で戸惑いながらも平野さんは、本書のタイトルにも表現されている『誠意』をもって問題を解決していかれた。そうした場面をいかに乗り越えていくか。瞬時の判断力、決断力そして相手のふところに飛び込む機智、智略が求められるが、これも普段の備えがあったればこそである。危機をいかに乗り越えていくかは今日的テーマに通じる。問われているのは人間力である。
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