■現実に見紛う域にまで昇華
城東署の組織犯罪対策課の係長を務める葛木邦彦警部補。警視庁捜査一課のキャリア管理官である葛木俊史。そして、帳場(捜査本部)壊しで知られる警視庁捜査十三係の鬼係長・山岡宗男。「一刻も早く犯人を逮捕し、住民に安心を与えたい」という刑事としての思いは3人とも同じだが、捜査方針をめぐり、穏健派の葛木父子と強行派の山岡とがことごとく対立。荒れる帳場に、殺人事件を無事解決へと導くことができるのか?
2年前に妻を亡くしたことがきっかけで所轄への異動を願い出た父・邦彦と、仕事一本槍(やり)だった父を見て、警官の道を選んだ一人息子の俊史は、互いの信念を認め合いながらも、自分の見解をぶつけ合う。この理想的な父子関係は、子を持つ親ならば誰もが共感できるだろう。また、本庁所轄を問わず、刑事たちが叩(たた)きつける熱い魂から生まれる職場の軋轢(あつれき)や結束を、単なる《警視庁VS所轄》という構図のお涙頂戴物語に落とし込まず、現実に見紛(みまが)う域にまで昇華させていることも、組織に身を置く者ならば深く肯(うなず)かずにはいられない。
サントリーミステリー大賞と読者賞をダブル受賞した『時の渚』における人間ドラマ、大藪春彦賞受賞作である『太平洋の薔薇(ばら)』の壮大なスケール、テレビ化した『越境捜査』に見られる組織観、日本推理作家協会賞候補作となった『還(かえ)るべき場所』の群像劇など、これまで上梓(じょうし)されてきた作品の良い部分が余すことなく注ぎ込まれている、笹本作品の最高峰が本書である。