著者が寿屋(サントリー)宣伝部に入ったとき、作家、山口瞳は係長で、後に直木賞受賞作となる「江分利満氏の優雅な生活」を『婦人画報』に連載していた。それまで決して順調とはいえない人生だった山口にとって、サントリー時代は最も充実した時期だった。著者は「勤め人」の生き方にこだわった山口の作品の原風景は、この時代に培われたものだという。
山口は「人生仮免許」というタイトルのコピーで、自身は「いまだに、仮免許がとれないのだ」と吐露している。その真面目(まじめ)さが、作品のきめこまやかな人間観察につながった、と指摘する。『「洋酒天国」とその時代』で織田作之助賞を受賞した著者による渾身(こんしん)の評伝。