前回、預金として滞留している富裕層の金を動かすには、増税で集めた金を公共投資に回し、コストプッシュ・インフレによって、物価を上げることが一番としました。
今回は、そのためには、政治を動かすしかないというお話です。株は経済の鏡であり、経済は政治によって動かされている以上、株の話に政治を避けて通るわけには行きません。
90年のバブル崩壊以後、民間部門の需要縮小を補うため、政府は毎年財政拡大と公共投資を続けてきました。需要を下支えし、経済の発展を図るためでした。
一度だけ、膨らみ続ける財政赤字を解消するため、97年橋本内閣の下で、消費税引き上げが行われたことがありましたが、インフレにはならず、逆に景気の落ち込みによって、増税分が税収の落ち込みで消えてしまいました。悪しき増税の見本とまでいわれ、98年の参議院選挙の敗北を受け、橋本内閣は退陣。以後、消費税の引き上げはタブーになりました。
需要喚起としての財政拡大路線は、資金を大量に投入しているうちは、景気の下支えに効果がありますが、すぐ息切れして、また大量の財政資金が必要となります。デフレは解消しないばかりか、財政赤字は膨らむ一方です。最近では、金融政策を活用することによって、インフレにするという政策が一般化しているようですが、副作用を心配する日銀がこの政策を取るとも思えません。
政権が民主党に移って、従来の財政拡大と公共投資に頼る経済政策から、お金を直接人の手に渡るように改めたのです。ただ、収入の充てもないまま、ばら撒いた資金では、経済の活性化には繋がりません。好況になるどころか少子高齢化の進展で、財政赤字はさらに膨らんでしましました。株式市場でもこれを見て取り、民主党が政権をとって以来、世界各国の株価が回復してきたにもかかわらず、日本の株価が下落したままです。
不人気で、左寄りだった前二代の総理から引き継いだ野田内閣は、TPP、消費税の引き上げと社会保障一体改革、コンクリから人への政策転換など、デフレの克服と経済成長に繋がるものに手をつけ始めました。
政権交代後、始めての「ましな総理」ですが、選挙で言っていたことと相容れないものばかりです。その上、消費税引き上げとセットにしなければならない公務員、議員定数の削減と行政改革を後回しするのでは、身内に甘く本気なのか疑問です。改革を進めれば身内から、やらなければ国民からそっぽを向かれ、どちらにしても行き詰まります。
野田総理の考えには方向性がありますが、時期が悪すぎます。議員の任期が2年を切るようなときに、税の引き上げをやれば、議員は与野党にかかわらず、こぞって反対します。誰だって税金を余計に払うのはいやです。だから反対します。
かといってこのまま、来年の任期まで何もしなければ、選挙で民主党は100議席を割って、第3の政党になってしまう可能性すらあります。それなら、選挙をやって仮に政権を譲ることになっても、参議院では最大勢力を占めていることを背景に、最大野党となって財政再建に参画することもできます。
私は、今年の6月ころまでには、衆議院の定数改定を決めた上で、総選挙があると見ています。野田総理が、本当にこの国の将来を思い財政再建を望むなら、政権の座をいっぺんは降りる覚悟でやらなければできません。それだけ増税は大変なのです。
財政再建の夢は、次の政権をとった党の下でかなえられます。民主党が再び政権の座に残れるようであれば、野田総理に取っては万々歳なのでしょうが、国民をだました罪はそう簡単に忘れられるとは思いません。野田首相の歴史上での評価は、政権交代がないと定まらないでしょう。
新しい政権の元では、増税も公共料金の値上げも粛々とやれます。引き上げの時期、幅、経済に与える影響など、公開の場で十分議論し、やるのなら早くやることです。その際には、ばら撒きではなく、働く場を提供するための公共事業を増やせば、景気を冷やさずにすみます。
防災都市の建設、子育てと保育、介護施設の充実、ダムの建設・・・。新幹線だって地方の発展のためにはまだまだ必要です。ばら撒きで借金を残すより、目に見える資産を子供たちに残すのなら、我慢してくれるのでは。
橋本内閣の失敗例を持ち出して、増税が税収増に繋がらないばかりか、大不況になるという人もいます。私は、今回は税と公共料金の引き上げで物価は上がると見ています。ただ物価上昇とデフレとが同時進行する、スタグフレーションの可能性を否定するつもりはありません。富裕層の多い少子高齢化社会では、ある程度はやむをえません。悪性インフレーションでも、ともかくデフレを止めることが先決です。
十分議論しそれなりの対策は必要です。ただ、当時とは違い増税分が、税収の落ち込みで相殺されることはありません。税収はすでに底をついていて、これ以上の減少は想定できないからです。
以上、コストプッシュインフレが経済に与える影響とその効果について、政治との絡みで見てきました。ただ、最近の政治情勢からすると、消費税の引き上げは、引き上げの可否より、誰が、いつ、どのように行うか、の議論に移っているように見えます。
先を見るに敏なる株式市場も今年は、政局と消費税引き上げ後の経済状況を模索しながらの展開になりそうです。
インフレを感じ取ると、銀行とタンスに滞留していた富裕層のお金が、いっせいに動きだします。株価は、リーマンショック前の水準12,000円を目指す動きになるでしょうが、今年はその前哨戦と捉えています。