「不良債権と寝た男」の後悔
「不良債権と寝た男」との刺激的なタイトルが本文中の一コマにある。旧住友銀行頭取時代から日本郵政社長を退任するまで、直近の十数年を金融担当記者として接してきたが、「剛腕・西川」を目の当たりにした年月であった。本書にはこれまでの「誇り」と「後悔」がつづられる。
日本の高度成長期に、調査部で粉飾決算を見抜く目を養って頭角を現し、商社・安宅産業の処理に投入されたことが不良債権担当としての道筋をつけた。旧平和相互銀行の救済合併、旧イトマン事件の処理など関わった仕事は「昭和の事件史」そのものだ。
頭取に就任した平成9年以後は、旧山一証券など国内大手金融機関の破綻が相次ぐ日本の金融危機時代と重なる。
13年に旧さくら銀行と経営統合して三井住友銀行の初代頭取に就任。16年には経営不振に陥った旧UFJ銀行が旧三菱東京フィナンシャル・グループとの経営統合を公表した直後、買収に名乗りを上げ世間を驚かせた。実は直前にUFJが救済を打診。その意向を読み違え「大魚を逸した」という反省から行動したとの経緯は本書で初めて知った。
そんな激動の時代を支えた部下の一人がラグビー日本代表監督を務め、銀行との「二足のわらじ」で知られた故宿澤広朗氏。ディーリング担当として一時は業務純益の半分を稼ぎ、将来の頭取候補の一人に考えていたという。だが専務に昇格した直後の休暇で登山中に急逝。「体力を過信して無理をした」と惜しむ。
輝かしいバンカー人生に大半が費やされた本書だが、銀行から日本郵政社長に転じる後段部分はすっきりしない。
14年10月、当時の竹中平蔵金融相が示した強硬路線に反発した大手7行トップが夜遅く抗議の会見を開いた。中でも西川氏の舌鋒(ぜっぽう)は鋭かった。
その竹中氏に請われて日本郵政に転じたのは、郵政民営化で「新たな金融秩序を作ることだった」と強調する。だが「民業圧迫」で、古巣の銀行にとっては脅威の存在となることに抵抗はなかったか。結局は政権交代で退任を余儀なくされ晩節を汚したようにも見える。本音を聞きたい。
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