支え合って生きている本来の姿
著者は、石川県の特別支援学校に勤務する現役の教諭である。1999年に刊行の『きいちゃん』(アリス館)は、実在する生徒とのエピソードを紹介したもので、小学校6年の国語の教科書にも掲載された。教師生活の傍ら、こうした執筆活動を精力的に続けてきた。「人と違っている」ことで分けられてしまう現実への憤りと、すべての人が平等であるという強い信念からだ。その著者が「どうしても今伝えたい」と上梓(じょうし)したのが本書である。
「あなたが痛いと、私も痛い」。著者の性質を最も端的に表す一文だ。人は傷つくことを怖(おそ)れる。「手をけがした友達を見ると、まるで自分の手のように痛くて」と、他人の痛みを全身で受けとめる著者の感じ方に顔をしかめる人もいるだろう。けれど私たちは思い出せるのではないか。今年3月の震災で、被災地にいる顔も名前も知らない誰かを思い、日本各地で、世界中で、多くの祈りが捧(ささ)げられたことを。お腹(なか)を空かせていませんように。凍えていませんように。無事でありますように。湧き上がるように他者を思う気持ちこそ、私たちが本当はつながっている証しなのだと著者は言う。
刊行後すぐ「ずっとつながりを求めていたことに気づいた」という感想が寄せられた。真実を語ることは難しい。けれど私たちは確かに知っている。大切な誰かに手をつないでもらったときのうれしい気持ち。その手があたたかいことを。本書はつながり支え合って生きている私たちの本来の姿を伝えている。