以前、創作の取材のためにニュ-ヨークからデンバーに飛び、そこで車を借りてグランドティートンとアーチーズ両国立公園を訪れたことがあります。
グランドティートン国立公園は、西部劇「シェーン」の背景になったところです。少年が「シェーン、カムバーック」と叫びながら、さすらいのガンマンを追いかけると、その先に美しいグランドティートン山が夕日に染まってそびえています。
山好きの私としては、この物語の背景になったグランドティートン山を一目でも見たいと、国立公園内のロッジに3日間滞在しました。ところが林の中にあるロッジからは山は見えず、せっかく持参したノートパソコンにもネットが繋がりません。わざわざ山に来たのだから、株価のことは忘れたらと考えるのは普通の人。私には山の中でも海の上でも、株価のことが頭の隅にあります。
係りの人から、ネットなら6マイルほど離れたジャクソンレイクロッジに行けば、2階のロビーでワイヤレスが使えると聞き、18時半ころ車で出かけました。ジャクソンレイクロッジは大きなリゾートホテルで、グランドティートン国立公園の中心的な施設です。ロッジの2階は、広々としたラウンジになっていて、大きなウィンドウの向こうには、湖とあのグランドティートンの美しい山並みが一杯に迫っています。
私はソファに腰を下ろし、持参したノートパソコンを開きました。そこには始まったばかりの東京市場が動いています。でもこのときばかりは、夕暮れが迫りシルエットを一層際ださせているグランドティートン山に、ただただ魅せられてしまいました。若い女性が奏でるピアノの演奏「遥かなる山の呼び声」が流れてきます。
ゆっくりとした至福のときが流れてゆきます。ゆっくりと、ゆっくりと。やがて、間近に迫る4,197メートルのグランドティートン山は夕暮れの闇の中に消えてゆきます。やっと、株価に目が移りました。株価の堅調にも後押しされて、身も心も豊かになってゆくのを感じます。
1時間半ほど時の流れを楽しんだあとロッジを後にしました。おそらく、このひとときを生涯忘れることはないでしょう。