精緻な筆致が描く食文化論
「美味(おい)しい小説」である。
1949年10月1日に中華人民共和国の成立が宣言されたあと、「偉大な領袖」毛沢東らの祝宴を飾ったのは淮揚(ホワイヤン)料理だった。出身地の湖南料理、それも豚の角煮ばかりを食べていたという従来の毛沢東イメージを一新させるようなエピソードが魅力的だ。
隋の煬帝(ようだい)が淮河や揚子江の流れる気候温暖な地を巡幸したときに、淮揚料理は発祥する。その後、明の永楽帝が南京から北京に都を移したことで、北方文化圏に伝わっていくという歴史のドラマだ。
壮大な歴史を凝縮した食文化を今に担うのは、世間でいうところの「ダメ男」の料理人だ。大連近郊の清貧の農家に文化大革命中に生まれ、腕を磨いて一流料理人になる。これも働いていた店で知り合った美少女の父親の援助があってのことだ。
やがて、日本と中国も国交が回復し、ときは静かに変化していく。料理人は「日中友好の使者」とされ、美少女から美人妻になった女性との間に生まれたばかりの娘を残して東京に派遣される。日本人は中国政府の映画が描くように、みな日本刀を振り回し、「バカヤロウ」と叫んでいると想像していたにもかかわらず、日本人女性、幸子(さちこ)の虜となっていく。
幸子と結ばれたことで苦悩も生じる。その悩みは中国特有の政治による性に対する抑圧と重なって人生そのものを狂わす。そこへ美人妻も東京の中華料理屋に現れるが、元妻と幸子とのあいだで、離婚してよりを戻すか否かの煩悩(ぼんのう)に明け暮れる。
こんな情けない男の手から読み手の涎(よだれ)を誘うような料理が出てくる。「狐色のソースをたっぷりかけられ、獅子の長いたてがみに見たてた細い千切りの生姜(しょうが)は、まんべんなく丸っこい肉団子を覆っている。箸でつっつくと、肉汁がジワッと中から滲(にじ)み出」るという美食、獅子頭だ。
「東北料理は塩を暴走」させ、「四川料理」には「命がけのような辛さ」があるという。芥川賞作家らしい精緻な筆致が描きだす絶妙な食文化論は、随所に隠し味となって読者を楽しませる。
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