「大和魂」とは何か

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大和魂と言えば、日本人の勇ましい気概のごとく使われるが、その具体的な意味を問われると返答に窮するのではあるまいか。

 じつは、大和魂ははるか千年前の平安時代に紫式部が創出し、『源氏物語』の「乙女の巻」で初めて用いた言葉である。それはどんな場面だったのか。

 光源氏は元服を迎えた息子の夕霧を大学に進学させると言い出す。当時の大学は現在と違い、官吏養成機関ではあるが、光源氏の子であれば行かずとも将来は約束されている。

 そこで、怪訝(けげん)に思った夕霧の祖母に当たる大宮が、なにゆえわざわざ遠回りをさせるのかと詰問に及ぶ。

 この時、光源氏は、特権に身を任せた人生を歩むのではなく、夕霧には生活や学問の苦労を積んでほしい。そうして初めて「才を本としてこそ、大和魂の世に用ゐらるる方も強うはべらめ」と真意を打ち明ける。

 ここに言う「才」は中国伝来の漢学の知識、「大和魂」とは日本人としての知恵を指す。すなわち、大和魂を世の中に役立てるにはどうしたらよいか、そのためには学問も欠かせない。だから大学にやるのだというのである。主体はあくまで大和魂であることに注意されたい。

 日本人としての知恵や常識を磨かず、いたずらに漢学一辺倒になればどんな人間が出来上がるか、『今昔物語集』の巻二十九にはその実例が挙げられている。

 或る時、清原善澄という著名な学者の家に強盗が侵入。善澄は床下に身を隠すが、金品を盗んで悠々引き揚げる悪党が憎らしく、検非違使に言いつけて捕まえてやるとつい叫んでしまった。これを聞いた強盗は引き返して善澄を斬り殺す。

 結びに、善澄は漢才は豊かでも「和魂」が備わっていなかったために、かくも稚拙であったと厳しい評価が下されている。

 このように、知恵や思慮分別に欠ける人材が続出しているようでは日本は滅びると見て、拝外主義に屈した異形の知識人層に敢然として抗したのが炯眼(けいがん)の式部だったと言ってよい。今の時代とて同様ではないか。

 知識に負けない精神の働き、--それが大和魂の真の意味だったのである。




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