最近長期投資を疑問とする声が多く聞かれます。無理もありません。現在の株価8,600円は、30年前の1982年ころの水準ですから、これ以降に買って現在まで保有している人は損になっています。
それどころか、1949年の東証再開以来、今日までの月末の株価平均は8,900円だそうですから、戦後の安いときから株を買い続けた人でさえ、含み損を抱えている計算です。
もっとあげれば、1989年につけた38,957円のバブル高値以降、この高値を抜けたことは一度もなく、現在は高値の4分の1にまで落込んでいますから、バブル以降買った人はさらに厳しくなります。
もちろん平均の話ですから、銘柄の選択や相場の変動を上手に捕らえて、億万長者の道を歩んだ人もないとはいえません。でも、これだけ長期間株価の低迷が続くと、株投資で億万長者になる人は減少の一途です。
長期間続く右肩下がりの相場の原因はデフレにありますが、IT革命よる売買方法と売買主体の変化が大きく影響しています。
1990年のバブル崩壊以降、それまで個人が中心だった売買主体が機関投資家に変わり、さらに2000年以降は、外国人が占めるようになりました。この間、コンピューターの普及と情報革命によって、情報の大衆化と国際化が進み、つれて売買手数料が大幅に引き下げられ、取引量の増大に繋がりました。
個人投資家も機関投資家に負けない投資環境になった結果、利幅で儲けるより数量でこなす売買方法になり、株式売買がより短期に変ってゆきます。短期運用では相場がどちらに動いても、売り買いとレバレッジで利益をあげることができます。
将来が読めない状況では、
(短期取引)チャート重視-変化の激しい値動き-売買差益狙い
(長期取引)ファンダメンタル重視-相場の位置と方向-配当収入中心
の構図が、すっかり短期投資に傾いてしまいました。
市場の価格形成力は短期売買者に移って、長期投資者は市場の隅に追いやられています。売買の主体も短期売買を中心とする外国人ファンドが占めるようになり、利回り、PER、PBRといった株式価値が、国際水準に引き下げられたのも長期投資者にとってはマイナスになります。
短期投資では、少し上がっただけで、すぐヘッジの売りを出すためなかなか上がりません。悪い情報には過剰に反応し、いい情報にはゆっくり行動して、山は低く谷は深い短期間のサイクル相場になってしまいました。ファンダメンタルからは買いごろになっている株がごろごろあっても、株価は上昇せず低迷は長期間続くことになります。
日経によると、投資家の9割が短期投資家とあります。長期投資が儲からなくなったのは、個人投資家だけではありません。年金、保険、銀行と長期で資金を運用している機関投資家も同様です。長期投資で儲からなくなった機関投資家は、運用先を株以外のものに移すか、ヘッジファンドに委託するようになってきました。これも短期売買の一因となっています。日本経済も証券会社も、短期投資家で食っている現状ではどうにもなりません。
売買方法が短期に変わり、売買主体が外国人に代わり、株価を押し下げたとしても、これだけ長期間株価が下落するものでしょうか。
リーマンショックのとき外国人は、それまでに日本に投資していた金額に相当する株式を売り越したといわれています。それが、日本の株価を30年前の水準にまで引き下げたわけですが、その後はまた日本株に投資資金を戻しています。リーマンショック後、世界の株価はショック後の水準を超えるまで回復しましたが、日本株だけは届かないまま低迷しています。
日本人が買っていないからです。日本株の時価総額は540兆円ですが、個人だけでもその倍の現預金を持っています。企業を合わせると現在の株価を4倍にする購買力は十分にあります。それでも、買っても下がると思えば買う人はいません。
デフレのもとでは、不動産、商品を始め、ほとんどすべてのものが値下がりします。長期保有の株も、元本割れの危険を常に抱えています。企業も個人もリスクを取らなくなり、結局お金をタンスにしまっておくが一番いいという結果になります。
それでも私は、株の長期投資を続けます。株式投資には、ほかの投資対象と違って配当という定期現金収入があり、生活費の一部に組み込まれています。アパート投資にも家賃という収入がありますが、まとまった資金がいる上すぐ現金化できません。
デフレ下でも、株価は一方的に下げているわけではなく、株式相場の変動はあります。安くなったところで広範囲に銘柄選択をすれば、下落リスクが少なく高配当銘柄でポートフォリオを組むことができます。
株式を短期で運用するのはどうでしょうか。カジノでプロ相手にポーカーをするようなもので、とうてい勝ち目がありません。私も、以前プロになろうと考えましたが、プロ同士の競争も熾烈で3年もつ人は少ないと聞いてやめました。
タンス預金は最上の利殖方法なのでしょうが、元金が減らない代わりに利息がもらえません。結局リスクを取るか取らないかの選択になりました。いずれ日本の財政は破綻し、デフレは解消に向かうでしょう。それに備えて今は資産(元本)の減少を最小限に押さえながら、配当で生活する道を選ぶより仕方がないのです。