援助利権の構図が赤裸々に
日本の政府開発援助(ODA)は現在5727億円、一時に比べれば、減ったとはいえ、それでも世界5位。援助には国民の税金などが使われているものの、納税者がこうした援助システムの構造を理解しているとは言いがたい。マスコミがなかなか報道しようとしないことも一因だ。援助をめぐる構図は依然、ブラックホールのなかにある。
本書は以前話題になったベトナムの高速道路建設に絡む日本のODAコンサルタント会社とベトナム政府高官の汚職事件を題材にしたもので、援助利権をめぐる開発プロジェクト会社とODA担当機関・JICAの癒着、さらに日本と相手国政府実力者の関係が赤裸々に描かれている。一読しただけで、国際的な援助利権の構図が赤裸々に見えてくる。
残念なのは、日本のODAの支援国のうち、常にトップを占める「中国」については触れられていないことだ。小説がベトナム汚職をベースにしているためやむを得ないのだが、ODA援助をめぐる構造腐敗のからくりは本書のなかで指摘されている内容とまったく同様であるばかりか、さらに大規模である。
例えば、中国湖南省のダムは当時の華国鋒主席が、海南島開発は趙紫陽首相が日本の政治家にじきじきに依頼し、ODAで建設されたプロジェクトだが、ここでもベトナムについて本書が描き出したように、彼ら政治家と親しい両国の有力ゼネコンや中国高官の子弟が経営する企業が関与している。あるいは胡錦濤現中国国家主席が担当したODA案件だった「日中友好青年交流センター」内では公然と売春が行われていたという事実もあった。だが日本の外務省は、こうしたスキャンダルの追跡調査すらしていない。
援助サークルの闇の深さは歴代の中国大使がほぼ例外なく、ODA中止反対論者であるばかりか、退任後は中国ビジネスに熱心な大手企業の社長顧問などに天下りしていることからも分かる。本書はそうしたODAの暗部をベトナムなどを素材に、しっかりとした取材で、切り取った良書である。