【書評】 『東京震災記』田山花袋著

AAI Fundさん
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『蒲団』『田舎教師』で知られ、自然主義文学を確立した小説家、田山花袋が残した名ルポルタージュが手ごろな文庫となった。題材は大正12年9月1日に起き、約10万5千人もの犠牲者を出した関東大震災だ。震災の発生直後から約1年にわたり、自らが見聞きしたことをこと細かく記している。

 震災直後の街を包んだ奇妙な静寂や、火災旋風で約3万8千人もの死者を出した被服廠(ひふくしょう)跡の惨事、そして震災前後の文壇の“気分”…。緻密な観察にもとづく描写が88年前の東京の異様な「空気」を伝える。

 未曽有の困難にどう対応するのか。人気作家が示した行動は、時代を超えて読み継がれる普遍性を帯びている。
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