いっこうに止まる気配のないスイスフラン高に痺れを切らし、スイス国立銀行は禁じ手ともいえる手段に打って出た。9月6日、スイスフランの対ユーロレートの下限を1ユーロ=1.20スイスフランに設定すると発表し、この水準を守るために無制限に外貨を購入する、つまりスイスフランを売る用意があると表明した。
売ったスイスフランが市中に出回り、マネーが膨張すればインフレを招くリスクがある。また、介入にもかかわらず、フラン高を止められなければ購入した外貨の評価損がふくらむ。それを覚悟のうえでの非常手段である。発表を受け6日のスイスフランの対ユーロレートは9%強も下落した。スイスフランと並ぶマネーのリスク回避先である円もスイスフラン安につられるかたちで、対ドルで76円台から77円台へと下落した。
超円高に苦しむ日本にとって、スイス国立銀行の捨て身の無制限介入は一見朗報のように思える。しかし、実態は真逆になりそうだ。
スイス国立銀行が無制限介入に踏み切ることで、日本が単独円売り介入に踏み切りやすくなるとの見方が出ているが、現実には「介入に対する他の先進国の理解を得るのは難しい」(野地慎・SMBC日興証券シニア債券為替ストラテジスト)と思われる。8月4日の日本の単独円売り介入後のG7(先進国財務相・中央銀行総裁会議)の声明には、「市場において決定される為替レートをわれわれが支持することを再確認した」との表現がある。このスタンスは当面、変わらないだろう。
日本が介入に踏み切れず、無制限介入でスイスフランのレートがほぼ固定されることになれば、投資家のリスク回避の動きに乗じて為替売買益を狙う投機筋の資金が円に向かう可能性は低くない。
また、欧米の現状を見る限り、投資家がリスク回避姿勢を緩める材料は乏しい。欧州では、9月2日にギリシャへの第1次支援の融資の第6弾を実施するに当たって、EU(欧州連合)など三者による協議が中断された。景気が当初予想より落ち込んだことなどで、ギリシャの財政赤字削減が計画どおりに進んでいないことが要因だ。米国の8月の非農業部門雇用者数は市場予想を下回り、前月比変わらずとなった。雇用が上向かなければ米国経済の回復は見込めない。
米国景気停滞の懸念が強まるとなれば、金利面でも円高圧力がかかる。9月20、21日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、FRB(米連邦準備制度理事会)が景気刺激策としてQE3(量的緩和第3弾)に踏み切らずとも、FRBへの必要額を超えた当座預金の金利を引き下げるなどの追加の金融緩和措置を決定する可能性は高い。
そうなれば円の独歩高となり、1ドル=70円台前半へ突入する公算は小さくない。