【書評】『評伝 笹川良一』伊藤隆著

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毀誉褒貶の多い「大きな」人物

 私の世代にとって笹川良一といえば、少年時代、「高見山関と火の用心のCMに出演していたおじいさん」である。でも、周囲の大人に「何をしている人?」と尋ねても、捗々(はかばか)しい答えが得られたためしはない。

 本書の著者、伊藤隆氏は「あとがき」で言う。「政治家、右翼、A級戦犯容疑者、モーターボート競走の創立者、日本最大の社会貢献団体のトップ…、その他いろいろ考えても、この人物全体を一語で表現する適切な言葉が見あたらない」。まさしくそうなのだ。笹川良一を一言で表現することはとても難しい。

 本書に先立って、著者はシリーズ『笹川良一と東京裁判』(全3巻+別巻1)を編纂(へんさん)した。大量に残された戦前からの史料を、おもに「笹川は東京裁判で何を問われたのか」という視点で編んだものだ。戦前の右翼政党「国粋大衆党」がどのような活動をしていたか。アメリカ側は笹川の行動の何に注目して戦犯容疑をかけたのか。笹川が巣鴨プリズンで感じたことは何だったのか…。

 それぞれに関わる史料は一つ一つ非常に興味深い。しかし、それらは、笹川がたとえば一貫して現実政治に大きな影響力を行使したとか、何らかの思想に殉じたとか、そういうわかりやすい答えを用意してはくれない。そこを一人の人間の一生として書ききったのが本書である。

 著者は先の文をこう続ける。「要するに非常に毀誉褒貶(きよほうへん)の多い『大きな』人物なのである」と。一つの像を安易に結ばない「大きさ」の魅力は本文に譲りたい。
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