戦中戦後の下町のにおい
「食道楽」といっても今風のグルメ本ではない。そこはかとなく立ちのぼるのは昭和のはじめから戦中戦後にかけての下町のにおい。折り目正しい「これはこう」という芸能道に生きる人たちの「食」へのこだわりがところどころに。
それにしても、塩煎餅(せんべい)とか、油揚げなど、日常、何気なく口にするものにこれほどのいわれがあるとは。周到な調べに驚く。
例えば、オートミルの食し方-牛乳と砂糖ではなく、「塩があいます」と著者にすすめたのは林家正蔵、そして漱石の「倫敦(ロンドン)消息」の一文から、そもそもスコットランドでは初めから「塩」を使っていたという件(くだり)を発見した時の著者の興奮。
ちなみにイギリス人は「砂糖」を使うと漱石は記している。明治の指導者たちはイギリスに留学することが多かったから、われわれ日本人にはイギリス風の習慣が伝わったのだろう。以来、勿論(もちろん)著者のホテルの朝食はオートミルに塩を用いている。
七代目沢村宗十郎といっても歌舞伎通以外は記憶にないだろうが、「とんかつもいろいろ食べてみましたが、やっぱり豚がいちばんですな」と言っているのもおかしい。とんかつといえば、普通、豚に決まっているとは思うのだが、本来はコートレット=衣をつけて揚げるだから、魚でも牛でもよいわけだ。
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