中国、米QE3で人民元国際化にブレーキも=スタンチャート・アジア首脳
- 2011年 8月 8日 11:01 JST
【香港】英スタンダード・チャータード銀行(スタンチャート)アジア部門のジャスパル・シン・ビンドラ最高経営責任者(CEO)はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、米国が新たな景気刺激策に出れば、中国は人民元の国際化を鈍らせるだろうとの見通しを示した。
米景気への懸念が高まる中で、連邦準備理事会(FRB)は量的緩和(QE)の第3弾(GE3)を開始し、流動性の高まりでアジア全域でインフレが加速するのではないかとの思惑が強まっている。同CEOは、そうなれば、「中国はより厳しい姿勢を取る」とし、同国はインフレ圧力には非常に敏感だと指摘した。
元はドルに対して上昇するとの見方から、香港の元建て預金は2010年半ば以降急速に増加している。FRBがいわゆるQE3を実施すれば、こうした見方はさらに強まり、資金を元で持とうとするする投資家が増えることになる。7月時点の香港の元建て預金は5540億元(6兆7000億円)で、1年前から5倍増となった。
ビンドラ氏によると、中国当局は決済に関する諸問題を解決するまで、そしてQE3が終了するまでは元決済拠点を香港以外に拡大する考えはない。シンガポールはロンドンと同様に元決済拠点となることを切望している。同氏は、市場が落ち着けばシンガポールが次の決済拠点になるとの見通しを示した。
同CEOは、元の国際化が足踏み状態になってもそれは一時的なものだとし、「元国際化で最も強気なのは中国当局だ。中国人民銀行(中央銀行)の役人をここに招いて、『われわれは何が手伝えるだろうか?』と聞いたことがある」と語った。スタンチャートはロンドンに本拠を置くが、その利益の約70%はアジア太平洋地域で得ている。
中国政府はドルへの依存を減らすため、元の国際化を進めている。同国貿易の元での決済は急激に増えており、今年第1四半期(1~3月)の貿易のうち元建ては約7%で、前年同期の0.5%を大きく上回った。
ただ、依然問題は残っている。「点心債(dim sum bond)」と呼ばれる香港での元建て債券は、起債者の為替リスクを低減させ、金利が低いため中国本土での債務返済に好都合であるにもかかわらず、これを利用して資金調達しようとする多国籍企業は極めて少ない。これは、一つには香港で調達した資金を本土に移転する際の中国の認可に時間がかかるためだ。ビンドラ氏は「中国が資金移転の透明性を高め、利便性をよくしなければ、わずかな取引量にとどまる」と語った。
世界の銀行は元の国際化を大きなビジネスチャンスと見ており、このため香港で元建て預金が速いペースで増えている。しかし、同氏によれば、利益は最小限にとどまっているという。同氏は「今のところ、元で利益を上げているところはない」としながらも、中国は最終的には元の兌換を完全に自由化し、各国の中銀は一部の準備を元建てで持つようになるだろうと述べた。
その上でビンドラ氏は「元の可能性はとてつもなく大きいため、損益にどう影響するかとは関係なく、われわれは元と関わっていなければならない」と強調した。