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米債務上限法成立:国防予算標的?


米債務上限法成立:米景気減速懸念強まる



 【ワシントン斉藤信宏、古本陽荘】米政府債務の上限引き上げ法が2日、オバマ米大統領の署名を経て成立したことで、米国債の債務不履行(デフォルト)という最悪の事態は回避された。同日のニューヨーク株式市場では、ダウ工業株30種平均がリーマン・ショック直後以来、2年10カ月ぶりに8営業日続落を記録。市場の注目は、米国経済の減速懸念に向かっている。同法に盛り込まれた歳出削減が景気に悪影響を及ぼすとの指摘もあり、オバマ政権は早くも次の難題に直面している。

 ◇止まらぬ株安

 「これからの数カ月間、米国民が最も心配していることに全力で取り組む。それは雇用と経済だ」。オバマ大統領は法案の上院通過を受けた声明の中で、繰り返し景気対策の重要性を強調。「財政赤字削減は目前の課題の一部に過ぎない」と訴えた。

 発言の背景には、米景気の減速傾向が顕著になっていることがある。米商務省が同日発表した6月の個人消費支出は、09年9月以来、1年9カ月ぶりに前月比でマイナスに落ち込んだ。米国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費の減速が鮮明になり、前週末に発表された4~6月期の成長率が2四半期連続で低水準にとどまったことと合わせて、市場では米国経済の二番底懸念に警戒感が強まっている。

 ウォール街ではここ数カ月、「1937年の悲劇を避けられるか」というテーマでの議論が盛んだ。大恐慌時代に増税や緊縮財政にかじを切り、結果的に不況を長引かせた当時の政治状況が、今の米国と類似しているというのだ。ある投資ファンド幹部は「景気の腰折れ懸念がある時期に緊縮財政を打ち出すのは大間違いだ」と財政赤字削減策を批判している。

 超党派の米議会予算局の試算によると、景気への影響を配慮して歳出削減は12会計年度(11年10月~12年9月)は210億ドル、13年度も420億ドルと小幅にとどまり、本格的な削減は15年度以降になる見通しだ。

 ただ、赤字削減が遅れれば、今度は米国債の格下げ懸念が強まる。格付け会社大手のフィッチ・レーティングスとムーディーズ・インベスターズ・サービスは、いずれも米国債の「トリプルA」格付けの維持を発表したが、ムーディーズは見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げた。中期的な赤字削減策を示せなければ、格下げが現実味を帯びることになる。

 米経済の減速傾向や円高を嫌気して、3日の東京株式市場の日経平均株価終値は前日比207円45銭安の9637円14銭まで下げた。また2日の欧州金融市場では、財政不安問題を懸念して、イタリア国債10年物の利回りが一時6・2%(価格は下落)と、ユーロ導入後の最高水準に達しており、今後も日米欧が抱える景気の不透明感が互いに影響を与え合う不安定な状況が続きそうだ。

 ◇国防予算が標的

 次の焦点は、今後10年の歳出削減や、11月下旬までに策定する超党派特別委員会の財政赤字削減の具体案へと移る。増税を阻みたい共和党、社会保障関連費削減を最小限に抑えたい民主党との新たな攻防の舞台となる。

 歳出カットの標的となっているのが、予算全体の4分の1を占める国防関連予算で、同法によると、10年間で3500億ドル(約27兆円)が削減される。国防総省内には懸念の声が広がっており、同省のラパン副報道官は2日、記者団に「どんな影響が出るか、内容を精査している段階だ」と慎重にコメントした。

 オバマ大統領は4月に「12年間で4000億ドル」の国防予算削減を指示しており、削減幅はこの指示に沿った規模といえる。問題は、超党派特別委員会が11月下旬までに削減策をまとめきれなかった場合だ。約5000億ドルが国防予算から自動的に追加削減される仕組み(トリガー条項)が盛り込まれているからだ。

 同省は予算削減を13会計年度から順次実施する計画だが、削減幅が膨らめば、海外の駐留米軍の兵力構成見直しも迫られ、在日米軍や海兵隊のグアム移転などに影響が及ぶ事態も否定できない。カーニー大統領報道官は「大統領がそのような国防予算削減を支持することはない」と述べるが、国防予算の先行きは不透明な状況だ。

 一方、オバマ大統領は2日の声明で、歳出カットだけでなく、増収策を含めた検討の必要性を改めて強調。高齢者医療保険の是正、富裕層や大企業の税制改革などに言及した。共和党は予算全体の約2割を占める社会保障関連費を削減対象として狙い、民主党が富裕層などの増税を主張しており、特別委員会の協議でも焦点となる。

 ◇年末、再び緊迫は必至

 米債務上限引き上げ法成立後は、債務上限引き上げと財政赤字削減のバランスをとる作業が始まる。オバマ政権は直ちに4000億ドルの借り入れが可能になり、デフォルトを回避。9月中には上下両院の承認を得て5000億ドルが追加的に引き上げられ、年内の経費はまかなえる。年末には予算均衡の憲法修正条項案を採決。承認を得れば新たに1.5兆ドル引き上げられる。修正条項承認のハードルは高いが、非承認でも1.2兆ドルの引き上げが可能になる。

 一方、財政赤字削減では10月から10年間で総額9180億ドルの歳出を削減。さらに超党派12人の特別委員会が11月下旬までに1.2兆~1.5兆ドルの赤字削減策を提案。上下両院は12月下旬までに原案のまま採決する。可決されれば13年1月までの借り入れ財源が確保される。ただ、特別委が削減策をまとめられなかったり、議会で否決された場合は「トリガー(拳銃の引き金)条項」に基づき13年1月から10年間にわたり計1.2兆ドルの歳出カットが強制的に始まるため、年末に再び緊迫するのは必至だ。



毎日新聞 2011年8月3日 23時41分

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