『先送りできない日本』 池上彰

AAI Fundさん
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□『先送りできない日本 “第二の焼け跡”からの再出発』


「みんなで考えましょう」


 1年近く前から書き始めていた原稿だったが、いまひとつタイトルも、コンセプトも詰め切れなかったという。そこに起こった東日本大震災。宮城県の被災地を訪れて「これはまさに“第二の焼け跡”だ」と感じた。日本が抱えている諸問題の先送りはもはや許される状況ではない、とのコンセプトが明確になった。

 復興財源として国債の発行も取り沙汰されているが、日本国債の評価が格下げ傾向にある中で、果たして可能なのか。「近い将来に、国債発行の限界が来ます。いずれは消費税を上げざるを得ないでしょう」と分析し、消費税は「10%では焼け石に水」と、段階的な大幅税率アップの必要性を指摘。増税に国民の理解は得られるとみる。「後は政治家が勇気を持って国民に呼びかけられるか、なのです」

 日本経済が大震災を機に、デフレを脱却してインフレになる可能性にも触れている。さらに、日本の農業政策はどうあるべきか、中国とのつきあい方は…と論点は幅広い。いずれも結論の一歩手前まで書かれているが、最終的な判断は読者に任されている。「問題点を提示した上で、さあみんなで考えましょうよ、ということです」と話す。

著書の根底にあるのは、敗戦後のがれきの中から不死鳥のように蘇(よみがえ)った日本人への信頼だ。「今回の震災は黒船来航や石油ショックのときのように、日本が大きく変わるきっかけになるはず。今こそ日本人の底力を発揮するときでしょう」と呼びかける。

 3月末でテレビの世界から身を引くことを決めていた。「もともと私は記者であり活字人間。本を書くためにNHKを辞めたはずだった。そのときの初心に戻ったわけです」と心境を明かす。大震災発生で2週間、テレビ出演を延長したが、今後は大事件発生時の特別番組出演を除き、取材・執筆活動に専念する。残念な気もするが「本を書いているときのほうがずっと楽しいことに気が付いてしまった」というのだから仕方ない。ただテレビ出演時と同様、わかりやすい解説は本書でも健在だ。
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