日本人の精神の系譜たどる
東日本大震災という未曽有の経験を経て、はっきりしたのは、ことばはわれわれに生きる力を与えてくれる-ということであろう。もちろん、どんなことばでもよいというわけではない。それは、歴史の中でみがかれ、日本人の精神というものが伝わってくることばでなければならない。
結論からさきに述べよう。本書によって読者は、そうした日本人の精神の系譜をたどることができ、かつ自分の中に眠っていたある種の遺伝子がスイッチ・オンするという感覚をもつにちがいない。
信長や秀吉、龍馬に高杉晋作、秋山好古・真之兄弟、そして日本武尊(やまとたけるのみこと)…。本書に登場する「時代の変革者」たちである。彼らの中に自分が幸せになりたいと思って行動した人物はいない。自分の幸不幸というスケールで物事をみていないのだ。別の言い方をすれば、内面に日本人としての強い精神を持っているがゆえに、自分というものを超えて前を、次の時代をみている。
日本人の精神とは一つではない。それは、本書でも一章を割いている武士道であり、日本人の中で精神化されていった孔孟の教えや諸宗教も含まれる。家屋がさまざまな柱によって支えられているのと同じように、歴史の中で培われてきた、日本人の内面を支える考え方や感じ方、ものの見方の総体であろう。