【書評】『白樫の樹の下で』青山文平著

AAI Fundさん
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■剣戟シーン、かつてない描写

 第18回松本清張賞受賞作の本作は、3人の幼馴染(なじ)みの貧乏御家人がふりかかった状況と格闘する時代ミステリーです。

 ころは田沼意次時代から松平定信へ移行する天明年間。所は江戸本所。主人公の村上登は小普請組(こぶしんぐみ)で、年中貧乏暮らし。佐和山道場で青木昇平、仁志兵輔たちと修行に励み、たまに他の道場の助っ人へ借り出され、手間賃を稼いで糊口(ここう)を凌(しの)ぎ、日々を過ごしています。

 天明の頃ともなると、武士といえど、人を斬ったものなどなく、刀を抜いた経験すらない者も珍しくない時代となっています。登も真剣をもって人と対峙(たいじ)したのは一度きりです。その時、刀を折ってしまった登はやむなく竹光を腰に帯びることとなったのでした。

 そんなある日、登は江戸城内で意次の息子の意知を切った「一竿子忠綱」という刀と、同じ作りの一振りの刀を手に入れたことから、物語がゴトリと動き始めます。同時期に、本所の近辺では残虐な辻斬りが頻繁に起き、登の周囲にも不穏な気配が立ち込め始めてくるのですが…。

 1990年代に純文学の新人賞を受賞したものの、挫折。10年のブランクを経て、初めて松本賞に応募し、しかも、本人にとって初の時代小説の執筆。その上、60を超えての受賞と、とかく話題が先行しがちですが、端正な文章も、全体の構成もこの年齢なればこそ、の高い評価を受け、さらには、クライマックスの剣戟(けんげき)シーンが、複数の選考委員からすばらしい、かつてない描写と折り紙がつきました。




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