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借り物

独禁法・利害対立…業界別節電へ企業汗だく


 

 東日本大震災に端を発した今年夏の電力不足問題。政府の節電要請を受け、自動車業界は休日を木曜、金曜にずらし、飲料業界も自動販売機の冷却時間を短縮する。通常、業界が足並みをそろえて生産や販売を調整することは独占禁止法上の問題をはらむが、今回、公正取引委員会は容認する方針。ただし非常時対応といえども、業界団体を通じた情報交換や、企業間の協力には独禁法違反の落とし穴が潜み、十分な注意が必要だ。






業界団体による主な節電対策


日本自動車工業会

7~9月の間、木、金曜日を一斉休業日に。全国の工場などが対象

本社など間接部門の休業日は各社の判断

全国清涼飲料工業会

7~9月に東京電力管内では25%以上、東北電力管内では15%以上の電力削減を目指し輪番節電を実施

上記の削減目標を達成するため、自販機の冷却停止などの手法を各社が策定

日本フランチャイズチェーン協会

基準電力の20%削減(東京電力・東北電力管内で7~9月平日の9時~20時)

店頭看板などの照明は「まちの安全・安心」の確保、経済萎縮ムードの払拭を目的に店舗ごとの立地状況を踏まえ夜間は点灯


 



 蒸し暑さを感じる6月。清涼飲料メーカーの自動販売機担当者は東京電力管内の自販機を駆けずり回っている。6月末までに夏の節電に向けて、自販機のオーナーに冷却時間の設定変更をお願いするためだ。



認可ケースを明示



 飲料業界は1995年ごろから、午後1時から4時まで冷却を停止するよう自主的に自販機を設定していた。電力不足の夏を迎え、全国清涼飲料工業会は東電管内の自販機については冷却時間の短縮を進め、各社の最大使用電力を前年比で25%以上削減することを決定した。



 「削減目標を決める際、メーカー間の調整は大変だった」。同工業会でとりまとめに関わった関係者は明かす。実は自販機ビジネスは飲料メーカーの利益の源泉だからだ。



 自販機は、特売をするスーパーなど小売店向けの販売よりも利益率が高い。だが、冷却時間の短縮を進めれば「外気温によっては、冷やし方が足りないと感じる消費者も出そう」(飲料業界)。消費者がスーパーなどに流れれば、メーカーの収益悪化につながりかねない。

それぞれのメーカーが自販機で稼いでいる割合にも違いがある。東電管内が主力販売地域となっているメーカーとそうではないメーカーとの利害関係なども交錯し、「一律25%以上削減」という目標にたどり着くまで困難を極めた。





公取委が示した業界団体が実施しても独禁法上問題とならない主なケース



  • 政府から示された削減目標を達成するよう会員企業に要請



  • 昼間に操業していた会員企業をいくつかのグループに分けて電力のピークカットをする


  • 業界全体の平日操業時間帯の削減目標を達成できるよう各社の休業日を日程調整する


  • 業界全体で電力使用のピークを抑えるために、休業日や休業時間をずらす調整をする際の時間や期間を示すこと


  • 省エネ設備の自発的な導入を会員企業に促すこと


  • 照明の照度や冷房の温度などについて申し合わせること


  • 各社の休業日や営業時間の変更について業界団体のウェブサイトで公表すること


 



 何とかまとめた業界指針。それでも、各飲料メーカーへ“強制”はできない。独禁法が、事業者団体の事業者に対する強制を禁止しているからだ。同工業会は各メーカーに節電計画の提出を求めるものの、あくまで自主的な取り組みに任す方針だ。



 経済産業省は3月の震災発生直後、約690の業界団体に節電への対応を要請した。こうした流れを受けて公取委も4月、電力削減のために業界団体が企業行動指針をまとめる場合、「独禁法上問題がないと認めるケース」を明示した。



 ただ、政府が求めた節電に対応するからといって業界内での競争を緩めてよいという趣旨ではなく、「独禁法の特例を設けたわけではない」(公取委調整課)との立場。カルテル予防などについては、あくまで従来通りの独禁法への配慮が必要だ。



 休日を木曜、金曜に設定した日本自動車工業会。各社の生産状況などの情報は「自工会ではほとんど取り扱っていない」という。業界団体をほとんど通さず、各社が東電などと相対で相談するやり方を選んだ。

震災を受けての非常時対応といえども、生産数量やコスト情報の交換はカルテル行為の素地になるからだ。独禁法に詳しい長島・大野・常松法律事務所の渡辺恵理子弁護士は「生産状況や計画を話し合えば生産調整につながりかねない。目的が正当であっても、情報交換は最小限にとどめるべき」と指摘する。


海外からの指摘も



 企業カルテル事件は業界団体が舞台になっているものがほとんどで、当局も目を光らせている。森・浜田松本法律事務所の宇都宮秀樹弁護士は透明性を保つために「期間を区切る必要があり、業界団体で決めた内容は公表し、話し合いのプロセスは記録を残しておくべきだ」と話す。



 震災復興に向けた企業間の協力にも注意が必要だ。地震の翌週から新日本製鉄の法務部には各事業部から「こういう協力をしてもよいか」との問い合わせが相次いだ。新日鉄は生産設備への被害が大きかった住友金属工業の大手自動車向け鋼板の代替生産を請け負うなど協力を深めた。



 新日鉄と住金は目下、経営統合交渉とそれに伴う公取委の審査が進行中。統合したかのように業務をすることは独禁法違反に当たる。こうした行為を業界ではピストルが鳴る前に走り出す、フライングに例え、「ガンジャンピング」という。



 新日鉄は統合協議入りを発表した直後から「ガンジャンピングについて社内に詳しく説明した」(法務部)。こうした事前の社内教育も素地になり、「現場が震災支援で悩むことはなかった」(佐久間総一郎執行役員)という。



 公取委が特定の行為を「独禁法違反にあたらない」と明言したことを、ある弁護士は「震災の影響を考慮し、踏み込んだ書きぶりだと思った」と話す。ただ、仮に国内に競争より協調を促す“ムード”があったとしても「海外の独禁当局から指摘される可能性は考えておく必要がある」(渡辺弁護士)。



 海外当局のカルテルに対する制裁金は多額にのぼり、企業の経営にも大きな影響を与えかねない。思わぬところで節電、復興に水を差さないためにも、企業はこうした法的リスクに目を凝らす必要がありそうだ。(山下晃)

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